大盾使いの少女はギルドポイントを譲渡される

 ギルドマスターであるエルーシャの宣言に、ニッコリ笑って頷いたシンシアは、冒険者の居場所を特定する為の魔道具を操作した。カタカタと音を立てて操作したシンシアは、数分後エルーシャの方を振り向き


「マスター。ガブリィさんは現在教会です。黒焦げ治療は完了してるようですが、リッカさんから与えられたダメージがあってまだ眠ってるみたいですね」


シンシアの言葉にティファは「何やってるの!?」と言って隣にいるリッカを見たが、リッカはさも当然の仕打ちだと言わんばかりの表情で黙って座っている。


「ギルドポイントの方はどうだい?」


「……ポイントが使われた形跡はありませんね。黒焦げの治療はリッカさんが置いていったお金で行ったようです」


「ふむ。それは僥倖だ。すぐにガブリィ君の保有してるポイントを差押え。使用出来ないよう凍結したまえ」


「かしこまりました」


ガブリィのギルドポイントを勝手に操作し始めてしまう2人に、ティファは慌てて声をかける。


「ちょっ!?マスター!?シンシアさん!?勝手にそんな事をしてもいいんですか!?」


ティファは自分達……いや主に自分の問題のせいで2人が何か言われるのが嫌でそう言ったのだが、エルーシャはニッコリと笑い


「問題ない。そもそも、「スカウト」枠で入ったリッカちゃんに違約金を払う義務はない。不当に手に入れた物を取り返すだけだよ。ルール上問題ないから監査ギルドにガブリィ君が訴えても相手にされないだろうね」


アッサリとそう言い返され、ティファは本当に大丈夫なんだろうか?と思うものの、エルーシャの笑顔に押されて口を噤む。


「マスター。ガブリィさんのギルドポイントの差押えと凍結を完了しました」


「よし。それじゃあ後は……」


エルーシャはニッコリ微笑みながらリッカの方を振り向き


「今回の被害者はリッカ君だ。故に、リッカ君が一言ポイントを返して欲しいと言えば、我々はガブリィ君のポイントをリッカ君のギルドカードに強制譲渡出来るよ」


エルーシャの言葉を瞬時に理解したリッカは、それはもう誰もが見惚れる笑みを浮かべ


「やっぱり納得いかないのでお願いします」


と返した。エルーシャはそれを受けてニッコリ笑って頷いた後、シンシアに指示を出す。シンシアも同じようにニッコリ微笑んで再び魔道具を操作した。数分後、リッカの冒険者である事を示すギルドカードが光った。


「ポイントの強制譲渡が完了したので、リッカちゃん確認してくれる?」


 シンシアにそう言われ、リッカは自分のギルドカードを確認する。


「……確かに私が譲渡したポイント全部戻ってきてますね。ただ、私が渡した分より多少多い気もしますが……」


「えぇ!?その分ってガブリィさんが元々保有していたポイントじゃないの!?」


どうやらリッカが譲渡した分だけでなく、元々ガブリィが保有していたポイントまで渡ってしまったようである。そんな事態が起こって焦るティファを他所に、シンシアはニッコリと微笑みを浮かべ


「あら?そうなんですか。マスター権限による強制介入措置は久々なんで操作ミスしてしまったみたいです」


アッサリとそう言い放った。しかし、ティファ以外の人達は全員悟った『絶対わざとやった』と……


「やれやれ仕方ないなぁ〜。シンシアは。今後はミスがないようにしたまえよ」


「はい。申し訳ありません。マスター」


エルーシャもニッコリ笑いながらシンシアを注意したが、特にシンシアを罰するつもりはないらしい。まぁ、ティファもそれは望んでいないのでそれは気にしていないのだが……


「あのガブリィさんが元々保有していたのは返した方が……」


「大丈夫。問題ないよ。今回はこちらのミスだ。だから、こちら側できっちり対処するのでリッカ君とティファ君は気にせずポイントを利用したまえ」


エルーシャはニッコリ笑ってそう言うが、ティファは本当に大丈夫なんだろうか?と心配になる。が、リッカの方はさも当然と言わんばかりにシンシアの方を振り向き


「それじゃあ、シンシア。さっき言った私とティファのパーティーを仮登録して、私が今保有しているポイント全部ティファに譲渡してちょうだい」


「了解です」


「ちょっ!?リッカ!?」


リッカのアッサリとしたその対応に驚いて目を見開いて驚くティファ。


「何?私がポイント全部渡すのに驚いてるの?私はもうAランクなんだからあまりポイント必要ないし、必要だったら2人でクエストこなして稼げばいいでしょ」


「いや!?それもあるけど!?元々ガブリィさんので……!?」


「それこそ気にする必要ないでしょ。元々ティファが貰えるはずだったポイントに比べたらむしろ少ないぐらいよ」


 リッカのアッサリとした物言いに、ティファはそれでもやはり返した方がと主張する。そんなティファを見てリッカは軽く溜息をつき


「それでも気になるならそれこそさっき言った通り、私達で依頼をこなして、のしつけて返せば問題ないでしょ」


「そ……そういう問題じゃないような……」


「まぁまぁ、ティファ君。リッカ君の言う通りだよ。ポイントに関しては私達でも対処するし、もし気になるなら、私達を通してくれればきっちり稼いだポイントをガブリィ君にお返ししてあげるから。ね?」


エルーシャの有無を言わさぬ笑顔に押され、ティファは大丈夫かなぁ〜と思いつつも、最後は折れて黙って椅子に座った。


「はい。手続き終わりました!今度はミスなく出来たはずですよ!」


シンシアがニッコリ笑ってそう言った瞬間、ティファのギルドカードが光り出した。シンシアに「確認してくださいね」と言われ、ティファは自分のギルドカードを確認する。


 ティファのギルドカードには、1年間の冒険者生活した中で全く見た事がない程のポイント数が付与されていた。

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