第180話 レストランへ

「ふんふんふ~ん♪」

「随分上機嫌だな」


 ギルドから依頼達成の報酬を受け取ったリリアとリントは、食事をとるため、そして話をするためにレストランに入っていた。

 ちょうど夕方近くなっていたので、夕食も兼ねてだ。


「それは上機嫌にもなるわよ。『ゴブリンの巣の殲滅』の達成報酬はまだもらえてないけど他の二つはもう貰えたし、それが想像以上に良い報酬になったんだから」

「あぁ、まぁ確かにびっくりするくらいもらったけど」


 『ゴブリンの巣の殲滅』の達成報酬は後日確認してからとなったので、まだ受け取れていないのだが、その他の二つ。『薬草採取』と『オークの討伐』。この二つの報酬は受け取ることができた。

 『オークの討伐』は通常通りの報酬だったのだが、『薬草採取』の報酬がリリアの想像以上だったのだ。

 その理由は単純、リリアが採取した薬草がかなり状態の良い上物だったからだ。そのため、通常報酬に加えて追加報酬が貰えたのだ。


「本当に便利ね、あなたの魔法。まさか薬草まであんなに簡単に見つけれるなんて」

「まぁ図鑑に載ってる奴ならひと通りは。それでもまさか上薬草があんなに群生してる場所が見つかるとは思わなかったけど」

「そこはじゃあ私の運が良かったってわけね。薬草採取してる時にアホなオークが近づいてきてくれたし」

「あのオークがあの場所を住処にしてたから誰も近づかなかったって説はあるけどな。新米の冒険者にオークはキツイだろうし」

「そうかしら?」

「お前は一撃で倒してたからわからないだろうけどな。普通はキツイからなオークとか。あいつら強くはないけど耐久力だけはやたらとあるし」


 薬草採取の最中に現れたオークを、リリアはまるで道端に転がる小石を蹴飛ばすように簡単に、「邪魔」の一言で片づけてしまった。

 リリアの裏拳がオークの顔面に直撃した瞬間、まるで風船が弾けるようにオークの頭が破裂したのをリントは目の当たりにした。

 ゴブリン大量虐殺に続く第二のトラウマだ。噴水のように飛び出す血というものをリントは初めて目撃したのだから。


「まぁそれはあれよね。RPGでも最初は硬くてキツイ敵だったけど、レベル上げてく内に自分の攻撃力が相手の防御力を軽々超えて気付けば楽勝になっちゃう的な。ゲームだけじゃなくて漫画とかでもよくあるけど。最初苦戦してた敵に終盤はもうあっさり勝っちゃうみたいな」

「確かにあるかもしれないけど……もはやお前隠す気ゼロだな。そこまで言うってことは認めるんだな。お前もこっち側の人間だって」

「まぁまぁ。その話は食べながらゆっくりしましょう。私お腹空いちゃって。あなたは何食べるの? 約束通り奢ってあげるわよ」

「別に奢ってもらう必要はないんだけどな。っていうか、このレストラン……肉料理メインのレストランだよな」

「えぇ、そうだけど」

「俺肉は嫌だって言わなかったか?」

「言ってたわね。でも私がお肉食べたかったから。文句あるの?」

「文句しかねぇよ! あんな凄惨な光景見せつけた後でよく肉食おうとか思えるな! 頭バグってんじゃねぇのかお前」

「ちょっとうるさい。他のお客さんに迷惑でしょ。それに、あの程度で食欲無くすなんて精神弱いんじゃない?」

「誰だってこうなるよ! お前じゃあ弟にあの光景見せれんのかよ!」

「嫌に決まってるじゃない。ハル君には綺麗な光景だけ見て過ごしてもらいたいの。汚いことなんて何も知る必要がないのよ」

「過保護か! ホントにブラコンだなお前は!」

「ブラコンですけど何か」


 キリっとした表情で堂々と言い切るリリアに、暖簾に腕押し、糠に釘という言葉が脳裏を過るリント。

 つまり何を言っても無駄だと思ったリントは深い、それはそれは深いため息を吐いて椅子に座り直す。


「そうだよな。お前ってそういう奴だよな。なんか騒いだら腹減ってきた」

「お肉食べる?」

「食うか! なんか魚とかあるだろ。それにする」

「ふーん、勿体ない。まぁなんでもいいけどね。はいメニュー」

「あぁ、サンキュー」


 リリアからメニューを受け取ったリントが食べるものを選んでいると、リリアがジッと視線を送って来る。


「……なんだよ。見られてると選びづらいんだが」

「いえ、そういえばハル君以外の男と二人でご飯食べるの初めてかもって思っただけ」

「あ、そうなのか? お前なら誘いなんていくらでもあるだろうに」

「まぁ確かにそれはそうなんだけど。十年ぐらい前からやたらと誘われたわ」

「いや十年前って、お前七歳くらいじゃねーか。事案だろそれ」

「でもすべがらく全部断ってたから。行ったことないのよ。下心丸出しだったし」

「じゃあなんで俺なら大丈夫なんだよ。自分で言うのもなんだけど俺も普通に男だぞ」

「だってあなたシスコンだし」

「シスコンじゃねーよ! え、まだその勘違い解けてなかったのか?」

「だって勘違いじゃないしね。いい加減認めなさいよ。認めたら楽になるわよ」

「事実を捻じ曲げようとすんな!」

「素直じゃないわね本当に。それで、決まったの?」

「あぁ。とりあえず決まった」

「じゃあ注文しましょうか。ベル鳴らしてくれる?」

「あいよ」

「それじゃあようやく、といったところで本題に入りましょうか。最初の約束通り、あなたの知りたいことを教えてあげる」


 そう言ってリリアは、笑みを浮かべた。


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