第177話 ゴブリンの巣
ゴブリンの巣にたどり着いたリリアとリント。
遠慮も無しに巣の中に入ろうとするリリアを、リントは慌てて引き留めた。
「おい、待てって。無遠慮に突っ込んだら危ないだろ。なんのために俺のこと連れて来たんだよ」
「あ、そう言えば……それじゃあさっさとお願いするわ」
「はぁ、ったくお前は……まぁいいけど。『ソナー』」
リントは手に持ったスマホから魔力を飛ばして、洞窟の中の様子を確認する。
『ソナー』の魔法で調べられることはいくつかある。洞窟のような空間であれば、その大きさを。そして中にいる生物の数を。問題点を上げるとするならば、感知した生物が人間であるのか魔物であるのかの判断がしにくいことだが、それも別の魔法と組み合わせれば容易に調べられる。
「……おいおい、マジかよ」
しかし、洞窟の中を調べていたレインはスマホの画面に映るものを見て顔色を変える。
そこに示されていた魔物……ゴブリンの数は300以上。とても二人で相手取るような数では無かった。
「どうかしたの?」
「こりゃダメだ。ここには300以上のゴブリンがいる。王都のギルドはどうなってんだ? こんなの新米の冒険者に任せるような依頼じゃないだろ」
「300以上……それはなかなかの規模ね。調べてなかったのか、調べが足りなかったのか。やっぱりそこも含めて冒険者の素質ってことなのか。どれなのかしらね?」
自分では遂行できない依頼だということをしっかりと把握して報告する。自分の力を把握することも冒険者として大事な資質だ。
それを確かめるために無茶な依頼を任せた可能性もあるのだ。
「たぶんそういうことだろうな。じゃあとりあえずこの報告だけしに帰るか」
「何言ってるのよ」
「は?」
「確かに300以上のゴブリンは驚異的かもしれないけど、でもそれだけでしょう? だったら依頼通り、殲滅してあげようじゃない。ちょうど試したいこともあったし」
「いや、俺達二人だぞ? いくらなんでも300は……」
「誤魔化さなくていいわ」
できないと言おうとするリントだったが、その言葉をリリアは遮る。
リリアは以前の戦いの中でリントの実力を大まかにではあるが、把握していた。
「あなた、この数のゴブリンくらいな相手にできるでしょ」
「いや、いくらなんでも300はキツイって」
「キツイ、なのね。無理、じゃなくて」
「っ!」
「あなたがどうして実力を隠そうとするのかは知らないし、興味もないけど。できることをできないというのは止めて。見てて腹が立つから」
容赦のないリリアの言葉にリントは押し黙る。
リリアの言うことは事実だった。もしリントが本気を出せば、300以上のゴブリンといえど、相手をすることは不可能ではない。
事情があるとはいえ、リリアに責められても仕方ないとリントは思っていた。
「……悪い」
「別にいいけど。そもそも今回の依頼は私の依頼だし。あなたは手伝いなわけだから。ただ……そうね、もし悪いと思ってるなら、ゴブリンを洞窟の外に追い出してくれる?」
「外に? まぁそれくらいならできなくはないけど。どうするんだよ」
「まぁ見てなさい。言ったでしょ。試したいことがあるって」
それから少しして、リントの魔法で周囲の木々を伐採してかなり開けた空間を作らせたリリアはその開けた空間の中心に立ってリントに合図を出す。
その合図を受けたリントは、どうするのかわからず、首を傾げながら魔法を発動させる。
発動させる魔法は『
突如として洞窟の中に響き渡る獣のような大音量に、洞窟の中にいたゴブリン達は何事かと戦闘態勢をとって外へとあふれ出してくる。
次から次へと無限に湧いて来るゴブリンの姿は、見るものの恐怖を与えるだろう。
リントはリリアから指示されていた通り、魔法を使った後はその場から離れた。
巣から出てきたゴブリンはリリアの姿を見つけ、獲物を見つけたと言わんばかりに舌なめずりし、取り囲む。
ゴブリンに捕まった女性が辿る末路など悲惨なものだ。360度グルっとゴブリンに囲まれたリリアはリントの目からは絶体絶命のように見えた。
「おいおい、ホントに大丈夫かよ」
リリアに何もするなと言われていたため、見守っているリントだが思わず魔法を使おうとスマートフォンに手を伸ばしてしまう。しかし、それはリリアに目で止められた。
ゴブリンに囲まれているリリアに焦りは全く見えなかった。
リリアは本当に一人でゴブリンを殲滅するつもりなのだ。
「でもどうやって片付けるつもりだ?」
リントは王都で一緒に戦った時のリリアの戦い方を知っている。一対一を基本とした立ち回り。とてもではないが、対多数を相手にするのが得意であるとは思えなかった。
万が一の時にはすぐに助けに入れるよう、魔法の準備だけはしておこうとスマートフォンを片手に成り行きを見守るリント。
「これで全部かしら。なら、やってみましょうか」
そんなリントの心配をよそに、リリアはどこまでも落ち着いていた。
「あなた達、私をどうにかできると思ってるの? それは随分と調子に乗った考えね」
そして、周囲を睥睨しながら言い放った。
「頭が高い。ひれ伏せ——【姉圧壊】」
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