第166話 認められません
神殿に戻って来たリリアはハルトが戻って来るのを待っていた。
「そろそろだと思うんだけど……あ」
遠くにハルトの姿が見えたリリアは喜び勇んで駆け出す。
「ハーーーーールーーーーーくーーーーーん!!!」
「っ!? ね、姉さ——うわぁっ!」
走った勢いそのままにハルトに抱き着くリリア。
周囲の人の目などお構い無しだ。
「んーーハル君ハル君! 会いたかったよぉ」
「会いたかったって、朝は会ったでしょ」
「朝しか会ってないじゃない。ダメダメ絶対だめ。私はハル君に一時間に一度は会わないと死んじゃうの。ハル君はお姉ちゃんが死んじゃってもいいの?」
「よくはないけど。でも、一時間に一度ってそんなのほとんどずっと一緒にいないといけないようなものじゃ……」
「うん、そう言ってる。起きてる時も、寝てる時もずっとずっとずっとずっとハル君は私と一緒にいないといけないの」
「怖い! 怖いよ姉さん!」
若干目を血走らせ、ハァハァしながら言うリリアにレインは若干の恐怖心を覚える。
王都襲撃事件以降、リリアはずっとこの調子だった。
以前にも増してハルトにべったりなのだ。修行を行った時にハルトとずっと離れていたのが相当堪えたらしい。
「おいお前ら。ベタベタするなら後にしろ。ここは入り口なんだぞ」
「ほ、ほら姉さん。イルさんもこう言ってるし。ね?」
「私は別に気にしない」
「お前が気にしなくても他が気にするんだよ!」
「あたっ!」
ハルトに抱き着いて離れないリリアの頭をイルは容赦なく叩く。
「痛いじゃない」
「言っても聞かない馬鹿なら叩くしかないだろ」
「イル……あなた最近私の扱いが雑じゃない?」
「雑な扱いされたくないならちゃんとしろ。お前が変なことしたらハルトにも迷惑がかかるんだぞ。お前がハルトの姉だってことはもう知れ渡ってるんだからな」
「むぅ、そう言われると弱いわね」
このままずっとハルトのことを抱きしめていたいリリアだったが、そのことがハルトの名に傷をつけると言われれば断念せざるを得ない。
自身の欲求を優先してハルトに迷惑をかけるわけにはいかないからだ。
「それじゃあ抱きしめるのは後にしましょうか。行きましょうハル君」
「う、うん」
リリアに手を引かれてさっていくハルト。
その背を見送ったイルは深くため息を吐く。
「ほんとにわかってるのかあいつ」
「お主、リリアの扱いが上手いのう」
「……リオンか。別に上手いわけじゃない。ただ当たり前のこと言ってるだけだし。それに、ハルトのことを引き合いに出したら大体動かせる」
「確かにそうじゃのう」
「ま、逆に言うとハルトがいないとどうしようもないってことなんだけどな」
「リリアにとって主様は全てのようじゃからな」
「それが良いとこでもであり、怖いとこでもある」
「そうじゃのう。主様のためなら何をしでかすか。まるでわかったもんじゃない」
「まぁ、こんなところでそれをぼやいてても……あ、そうだ。忘れてた。アウラに呼ばれてたんだ。魔物の討伐が終わったらハルトと一緒に部屋に来いって」
「部屋に? うーむ、なんぞ面倒事の予感がするのう」
「言うなよ。オレだってそう思うけどな」
アウラからの呼び出しに嫌な予感を感じつつ、リリアとハルトの後を追うのだった。
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それからしばらく後、ハルトを抱きしめ続けるリリアをなんとか引きはがしイルはハルトを連れてアウラの部屋へと向かった。
「確かにハルト君を連れてくるようにとは言いましたが……どうしてあなたもいるんですリリア」
「別にいいでしょアウラ。ハル君に関わりのある話ならそれは私にも関わりがあるということなんだから」
この一ヶ月の間に、リリアとアウラは仲良くなっていた。互いのことを気安く名前で呼び合う程度には。
「……まぁいいでしょう。この際それは気にしません。リリアがいると話がこじれそうだったので呼ばなかったんですが……」
「わ、悪かったよ。でも仕方ないだろ。こいつずっとハルトの傍にいるし。下手に話しがあるなんて言うと、こいつ怖いし」
「……まぁ来てしまったものは仕方ありませんね。実は今度のハルト君とイルには帝国に行っていただきたいのです」
「帝国……ですか」
「はい。王国もようやく少しずつ落ち着きを取り戻してきました。そこで改めて帝国へ挨拶に向かって欲しいのです。前回は中途半端に終わってしまいましたから」
「そう言われれば……わかりました。いつ帝国に行けば?」
「三日後の早朝に出発予定です。それまでに準備をしておいてください」
「それなら私も帝国に向かう準備を——」
「いえ、待ってください」
当然の如くハルトの帝国行きについて行こうとするリリアをアウラが止める。
「今回の帝国行きについて、リリア。あなたの同行は認められません」
「……へ?」
アウラの言葉にリリアは固まった。
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