第154話 新たなる【怠惰】の力
「はぁっ!!」
ガルの姿が目の前から掻き消えたかと思ったその数瞬後にはハルトの背後へと回り込んでいた。しかしハルトはもう慌てはしない。これまでリリアに教えられて来た技術が、リオンとロウから与えられた力が対処を可能にしている。
「甘いよガル君!」
気配のした方へとハルトは剣を振る。短剣を突き出そうとしていたガルはまたも受けた思いもよらぬ反撃に目を見開く。喉元に迫る剣を避けるため、ガルは後退を余儀なくされる。そしてその隙をハルトは見逃さなかった。
「一気に畳み掛ける!」
ガルに追撃を仕掛けたハルトは止まることなき連撃を続ける。もしここで攻撃の手を緩めれば、ガルは再び態勢を立て直すだろう。それを許容することはできなかった。
「ぐぅっ!」
手に持った短剣と鋼鉄化した両足でハルトの攻撃をしのぎ続けるが、それだけで防げるほどハルトの攻撃は甘くはない。的確に、着実にガルのことを追い詰めていく。
「『地砕流』!!」
ハルトは地面に強く剣を叩きつける。土や小石が激しく巻き上げられ、ガルに襲いかかる。目を潰されまいとして反射的に顔を守るガル。しかしそれこそハルトにとって狙い通りの行動だった。
「もらった!」
翻した剣で隙だらけになったガルの胴を狙うハルト。このまま剣を振りぬけば、ガルは胴を切り裂かれ死ぬこととなる。ハルトの持つ剣は玩具ではない、人の命を奪うことができる剣なのだから。
「……っ」
ハルトの脳裏に一瞬過るビジョン。ハルトの剣で切り裂かれ、血と臓物を撒き散らしながら死ぬガルの姿。
「——あぁあああああっっ!!」
ハルトはそのまま剣を振りぬく——ことはなく、剣を持ち替え柄の部分でガルの鳩尾を強く打ち据えた。
「がふっ!」
内臓が反転したのではないかというほどの衝撃と共に、ガルは激しく地面を転がる。
「はぁ、はぁ……ガル君、ボクの勝ちだよ」
ガルは確かに強い。しかし、その強さは戦いに慣れた者の強さではない。基本的にガドが戦い、ガルはサポートという立場だ。戦い慣れていなくても無理はなかった。ガドはガルに戦い方など教えたことがないのだから。今のガルの戦い方は全て、ガドの見よう見まねでしかなかった。
対するハルトはと言えば、リリアから与えられた戦闘技術も知識もある。リリアが築き上げてきた技術を、惜しむことなく与えられているのだ。
能力的に見ればガルの方が強かったとしても、その差は非常に大きかった。
「ふふ……ふふふ……」
しかし、劣勢の中にあるというのにガルは不敵な笑みを浮かべて起き上がった。それは、勝利を確信した者の笑みだった。
「強い、強いなぁハルト君は。やっぱり僕の力じゃ君は及ばないのかもしれない。でも当然だよね。君は僕にないものをたくさん持ってるんだから。頼りになる仲間。助けてくれる家族。戦うための術を教えてくれる存在……僕の持ってないものを君は全部持ってるんだ。でもね、だからって僕が君に勝てないわけじゃないんだ」
「? それってどういう——っ!」
その瞬間だった。ハルトの視界が大きくグラリと揺らいだのは。確かに立っているはずなのに、地面が揺れているかのような感覚。視界が定まらずついにハルトは立っていることすらできなくなった。
『おい主様! どうしたのじゃ!』
「毒だよ」
『毒じゃと!?』
「さっき、僕の短剣が頬を掠ったでしょ。その時、僕の短剣に塗られていたのは毒だよ。その毒が……ようやく効いてきたみたいだね」
「ど……く……」
「安心しなよ。掠ったくらいじゃ死んだりしないから。せいぜい痺れて動けなくなるくらい。でも……それだけで十分だ。動けなくなった君を殺すなんて、赤子の手をひねるよりずっと簡単だからね」
ガルは起き上がり、ゆっくりとハルトへ近づく。しかし毒によって体が麻痺しているハルトは満足に動くことはできない。
(まずい……体が思う様に動かない。視界も……このままじゃ……ここまできたのに)
『主様! 主様! くそ、こうなれば妾が』
『それはまった方がいいんじゃないかなぁ』
『ロウ? 邪魔するでないわ、このままでは主様が!』
具現化しハルトのことを守ろうとするリオンだが、その前にロウによって止められてしまう。
『そうやって焦るのがリオンのよくないとこだよ。ようは毒さえなんとかなればいいんでしょ。それくらいならなんとかしてみせるよ。ちょっと主導権貰うからね』
ロウはリオンの返事も待たずに【カサルティリオ】の主導権を奪い去る。
『毒だかなんだか知らないけどさぁ。そんなもので今の主様を殺せるなんて思わないでよね。今の主様には、不死鳥の加護がついてるんだから』
ロウが司るのは【怠惰】の力。《不死》と《再生》の能力を持っている。そして、ハルトが『煉獄道』をクリアしたことで、【怠惰】の力はより強くなっていた。
『体が毒に蝕まれるなら、毒ごと全てを焼き尽くす』
「何をするつもりか知らないけど、その前に——」
異変を感じとったガルはハルトのことを仕留めようとするが、それよりもロウの方が早かった。
『さぁ、これが新しい力だよ——『怠惰なる不死鳥・回生輪廻』』
【カサルティリオ】から激しく炎が巻き上がり、近づこうとするガルのことを阻む。そしてそのまま、炎がハルトの体を包みこんだ。
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