第88話 煉獄道の始まり
神殿へ戻ってきたハルトとリオンは、アウラ達への説明もそこそこに自室へと戻ってきていた。
「リオン、ガル君達のことあんなに適当でよかったの? もっと状況とかちゃんと説明しないと」
「大丈夫じゃろ。王都にすでに魔族が入り込んでおるということは伝えたのじゃ。それ以上はあやつらの仕事。今の妾達にとって大事なのはそれよりも修行じゃ。今から行う修行は時間がかかるからの」
「そんなに?」
「パレードの練習は前日一日あれば十分じゃろう?」
「え、どうなんだろ……ボクは特にすることないから変なことせずに流れだけ頭に入れとけってイルさんには言われたけど」
「ならば問題ないの。これより先は主様の努力次第じゃ。早ければ数時間で終わるじゃろう。しかしそうでなければいつ終わるかわからん。『煉獄道』の修行は一度始めれば完了するまで終わらん。途中で逃げることはできん」
「う、うん」
「誰の助けも借りることはできん。信じることができるのは己のみじゃ。そのことを忘れる出ないぞ」
「わかったけど……結局どんな修行なの? 部屋に戻ってきちゃったけどさ」
「問題ない。ここでできるからの」
「え、そうなの?」
「うむ。ベッドで横になるのじゃ主様よ」
「うん……」
「よし、そのままじゃぞ」
リオンに言われるがままにベッドで横になるハルト。リオンはそんなハルトにまたがるようにして座り、ハルトの胸に手を当てる。
「ちょ、リオン!? なにして——」
「えぇい。うるさいのじゃ。集中しておるのじゃから黙っておれ」
慌てるハルトの言葉をにべもなく切り捨てるリオン。ハルトの胸に手を当てたままリオンは呪文を唱え始める。
「【カサルティリオ】の名において命ず。第四罪『怠惰』よ。我が主をさらなる深淵へと誘いたまえ、我が主をさらなる高みへと押し上げたまえ。その名はハルト。ハルト・オーネス。汝らが主となる者の名だ。さぁ開け。その名は『煉獄道』なり」
リオンの手から力が流れてくるのを感じると同時、ハルトの心臓がドクンと跳ねる。流れ込む力はなおも止まらず、胸が焼け付くような感覚をハルトは感じていた。
「あ、がっ……」
「耐えるのじゃ主様! ここで折れては話にならぬぞ! 想いを貫くのじゃろう。ガルを止めるのじゃろう! ならばこの程度で音を上げるな!」
「……っ!」
暴れ狂いそうになるほどの痛みの中、リオンの言葉を聞いたハルトは歯を噛みしめて痛みに耐える。永劫にも感じられるような時間の中、ハルトは一生懸命意識を繋ぎ止める。
やがてリオンの手から流れ込む力は止まり、荒い息を吐きながらハルトは胸を抑える。
「はぁ、はぁ……」
「よく耐えたの主様。これに耐え切れず死んでしまう者もたまにおるのじゃが」
「こ、怖いこと言わないでよ……」
「ふふふ、耐えきったのじゃから問題あるまい」
「えっと、これで終わり……なの?」
「いいや、まだじゃ」
「へ?」
「むしろまだ始まっておらんぞ。これは始めるための準備なのじゃからな」
「え、ど、どういうこと?」
「そのままの意味じゃ。『煉獄道』はここからが本番じゃ」
「これ以上なにするの? もしかしてまた耐えないといけない感じ?」
「そうじゃの……ある意味、今よりも辛いかもしれん。そして今度は正真正銘、主様一人の力で手にせねばならん」
「それって……どういう……」
話している最中、ハルトは急に眠気に襲われる。それはあらがい難いほどの眠気で、ハルトはゆっくりと眠りの世界へと落ちて行く。
それを見届けたリオンはポツリと呟く。
「主様が無事に戻って来ること、祈っておるぞ」
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「ん……ここは……」
頬に当たる冷たい感触でハルトは目を覚ました。しかしそこはハルトの自室ではなく、真っ暗な謎の空間だった。
「どこ……ここ。ボク、部屋にいたはずなんだけど……夢?」
不思議な現象に夢なのではないかと疑ったレインは自分の頬を思いっきり抓る。
「いっったっ!」
しっかりとした痛みがハルトの頬に走る。しかしそのおかげでハルトはこれが現実なのだということを理解できた。
「夢じゃない……じゃあ本当にどこなんだここ? もしかして……これがリオンの言ってた『煉獄道』なのかな? でも一体何をどうすれば……」
あまりにも情報が無さすぎてハルトは困惑するしかない。キョロキョロと見回しても周囲には物も何も置いてない。
「うーん……どうしよう。とりあえず適当に歩いてみようかな」
歩けば何かわかるかもしれないと適当に周囲を散策するハルト。しかしどれだけ歩いても何も現れない。
「もしかしてずっとこのまま……なんてことはないよね?」
五分ほど歩いても何もないことにさすがに不安になり始めるハルト。その時だった、突如地面にボッボッボっと炎が灯り、道が現れる。
「これ……この通りに行けばいいのかな? うーん……いや、悩んでても仕方ないよね。このままじゃいつまで経っても終わらないかもしれないし。行ってみよう!」
そしてハルトは炎に導かれるようにして先へ進む。その先に何が待っているのかも知らないままに。
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