第87話 ハルトの修行
「それじゃあここまでで大丈夫だから。二人とも気を付けて帰ってね」
ひとまずの落ち着きを取り戻し、帰宅する運びとなったハルト達。ギリギリまで送るというフブキたちの申し出を一度は断ったハルトだったが、心配する二人に押し切られる形で途中まで送ってもらっていた。
「それはこっちの台詞。本当なら神殿までついて行きたいところ」
「狙われてるのはハルト君なわけだしねー」
「まぁそうなんだけど……二人ともボクの知り合いだってガル君には知られちゃったわけだし。狙われないとも限らないでしょ」
「確かにの。用心するにこしたことはないのじゃ」
「もちろん私達も気を付けるよ」
「それじゃあ私達ももう行くね。バイバイハルト君」
「うん、今日は本当にありがとう」
「今度は私が困ってる時に助けてね」
「もちろん。ボクにできることならなんでもするよ」
「あ、言質とったからね。約束だよ」
「ねぇハルト。アキラだけ?」
「もちろんフブキもだよ。約束する」
「期待してる」
「フブキ、そろそろ行かないと門限に間に合わなくなるよ」
「了解。それじゃあハルト、バイバイ」
「うん、またね」
名残惜し気な表情をしながらも別れを告げるフブキ。ハルトとリオンは二人の姿が完全に見えなくなるのを待って神殿へと歩き出す。
少し歩いた所でハルトはリオンに話をきりだす。
「ねぇリオン。聞きたいことがあるんだ」
「なんじゃ?」
「ボクにガル君を止めることはできると思う?」
「……それはどういう意図の質問じゃ? 力の話か? 想いの話か?」
「両方……かな」
「そうじゃな……力という点で言うならば怪しいかの。対峙してわかったが、あやつの力は底が知れん。さきほども全力ではなかったようじゃしな。じゃが、強いのは確かじゃ」
「やっぱり……」
「あやつを止めたいという想いの話であれば、それは妾に聞くことではなかろう。主様の意志次第じゃ。ただ生半可な覚悟では殺されるだけじゃ。今度会った時、あやつは再び主様を殺そうとするじゃろう。殺そうとしてくる者を止めるのは至難の技じゃぞ。それこそ互角の実力では話しにならん。殺そうとする者と、止めようとする者。どちらがより大変かは言うまでもないじゃろう」
「……うん、そうだね」
「ガル君って……魔王軍、なんだよね?」
「おそらくな。奴が持っていた物が作用しているのか、妾の目を持ってしても正確に見ることはできなかった。しかし、僅かに感じたあの力の感じは魔族のものじゃった」
「それじゃあさ。もう魔王軍が王都の中に入ってるってことだよね」
「そういうことになるのう。後でアウラに伝えておくべきじゃろう」
「本当に……パレードの襲撃が起こるんだね」
「そうじゃな。くしくもガルが襲ってきた事によってミスラの【未来視】は真実のものであるということが確定したわけじゃ」
いよいよ現実味を帯びてきたパレード襲撃にハルトの表情が暗くなる。そんなハルトを見たリオンはあえて明るく言う。
「そう暗くなるでない主様よ。むしろ目的が明確になってよかったではないか」
「どういうこと?」
「ガルで魔王軍の存在であったということは、魔王軍の襲撃を止めることができれば同時にガルも止めれるということになるじゃろう。つまり一石二鳥じゃ」
「そうことになる……のかな」
「そう思っておけばよいのじゃ。それよりも主様、わかっておるな。パレードは三日後。つまり襲撃も三日後と想定してよいじゃろう」
「うん。そうだね」
「主様はそれまでにガルを止め、魔王軍の襲撃を止めることができるだけの力をつけねばならんのだ。わかっておると思うが、今のままでは到底無理じゃ」
「でもそんな短い時間で急激に強くなることなんてできるの?」
「ふん、それができれば苦労は無い。そんなことができるのは一部の化け物のような人間だけじゃ。いくら主様が《勇者》で他のものより成長速度が速いとはいえ、二日三日では大した成長は見込めんじゃろう」
「それじゃあ……」
「慌てるな。あくまでそれは普通にやれば、の話じゃ」
「どういうこと?」
「主様にあって、他の者に無いもの。それはなんじゃと思う?」
「ボクにあって、他の人にないもの? ……なんだろう。パッとは思いつかないな。特技があるわけじゃないし……」
「そこはスッと答えんか! 妾がおるじゃろうが! この【カサルティリオ】がな。これこそ主様だけあって、他の者には無い力じゃ!」
「ご、ごめん。でもリオンはボクのものっていうか、ボクの仲間って感覚だから……」
「全く……そう言われて悪い気はせんが。主様はもっと強欲になって良いと思うのじゃ。お前は俺のモノ、的な感じでの」
「さすがにそれは……ボクの性格と全然違うし」
「男にはそれくらいの強引さが必要な時が来るものなのじゃ」
「えぇ……って、そうじゃなくて。リオンがいることがボクが短い期間で強くなれることとどう関係があるの?」
「その前に一つ確認したいのじゃが……主様は強くなるために命を懸ける覚悟があるか?」
「命を懸ける覚悟……」
命を懸ける覚悟があるかと問いかけるリオンの目は真剣だった。
「……強くなるために命を懸けれるかどうかはわからない。でも、大切なモノを守るために命を懸ける覚悟はあるつもりだよ」
「なるほどの。まぁ今はその答えでもよいじゃろう。自分ではなく何かのために。それもまた強さを求める理由の一つじゃ」
「これでいいのかな?」
「及第点じゃな。それでは教えてやろう。主様にしてもらう修行の内容をな。そう難しいことではないぞ。ただ単純に【カサルティリオ】の門を開いてもらうだけじゃ」
「【カサルティリオ】の門を開く?」
「そうじゃ。『煉獄道』……主様にはこれから、それに挑戦してもらう」
そう言ってリオンは不敵に笑うのだった。
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