第67話 再戦、アースドラゴン 前編

「グルルァアアアアアアアッッ!!」


 森の中に響き渡るアースドラゴンの咆哮。空気を伝わってビリビリとリリアの肌を打つその咆哮は、それだけで立ち向かおうという気力を削ごうとしているかのようだった。

 しかし、対するリリアはその程度のことでは怯まない。むしろリリアはその咆哮を受けて好戦的な笑みを浮かべていた。アースドラゴンの本気を感じ取ったリリアの体がを戦闘態勢へと移行する。

 アースドラゴンは最早リリアのこと『餌』としては見ていない。カイザーコングと同じく、自身の倒すべき『敵』として認識していた。アースドラゴンは自らの誇りにかけてリリアのことを倒そうとしていた。

 まず動いたのはアースドラゴンだった。以前よりも大きくなったその巨体でリリアのことを押しつぶそうと突進してくる。


「遅い!」


 アースドラゴンの突進は威力はあるものの、それほど速いわけではない。リリアにとっては避けるのが難しいものではなかった。何度も突進を仕掛けてくるアースドラゴンだが、リリアのことを捉えられないことを悟ると、今度は尻尾での攻撃へと切り替える。

 アースドラゴンにとって尻尾は唯一早い攻撃を繰り出せる場所だ。槍のように鋭く、そして速い攻撃がリリアに襲いかかる。

 ステップを巧みに駆使して避け続けるリリアだったが、アースドラゴンの尻尾の速度は尋常ではなくリリアの逃げ場を少しづつ奪い去っていた。


「この攻撃の仕方……カイザーコングのっ」


 怒涛のラッシュでリリアから逃げ場を奪ったカイザーコングの攻撃を彷彿とさせるアースドラゴンの攻撃。それはまさしく、カイザーコングの血肉を取り込んだことによってアースドラゴンが得た技だった。しかもアースドラゴンはリリアの機動力を奪うために足を狙って攻撃を続けている。


「この……舐めるな! 【姉障壁】!」


 『姉力』を多く消費することから、使う場面は絞っておきたかった【姉障壁】だがここを使い時と定めたリリアは躊躇することなく使う。カイザーコングの攻撃を防ぎきった【姉障壁】は、アースドラゴンの尻尾攻撃もはじき返す。まさか防がれるとは思っていなかったのか、一瞬の動揺を見せるアースドラゴン。その隙にリリアはアースドラゴンへと肉薄し、その懐へと飛び込む。


「ここだ! 【姉破槌】!」


 カイザーコングの姿勢を崩そうと、右前足に【姉破槌】を叩き込むリリア。しかし、


「っ、やっぱり硬い……」


 殴った右腕の拳を抑えるリリア。アースドラゴンの前足には傷一つついていなかった。

 リリアの攻撃はまったく通らないどころか、逆に殴ったリリアの腕が痛むという結果になってしまった。


「やっぱりあのユニコーンが言ってた通りっていうか。ホントに硬すぎる。嫌になる硬さね」


 ビリビリと痺れる右腕を抑えながら、忌々し気に呟くリリア。もしかしたら攻撃が通るかもしれないと僅かな希望を込めての攻撃だったが、リリアの願いは儚くも無残に打ち破られた。


「逆鱗は……狙えそうにもないしね」


 【姉眼】を使って以前に見つけた逆鱗の位置を見てみれば、そこは以前以上に強固な守りで固められていた。その守りを破るのは容易ではないことは明白だった。


「逆鱗を狙って大人しくしてくれるわけもないし——ねっ!」


 リリアのことを潰そうと振り下ろされた前脚を、後方に飛びずさることで避けるリリア。ズガンと、激しい音と共に地面を陥没させたその一撃は離れたリリアの立っている地面まで揺らすほどだった。


「体重があるから一撃も重いってわけね。鈍重なのが幸いだったわ」


 速いのは尻尾攻撃だけでそれさえ警戒していれば問題ないと、リリアはそう思っていた。しかし、次の瞬間アースドラゴンはリリアの予想だにしない行動にでた。

 その口を大きく開き、リリアの方へと向ける。それはさながら、照準を合わせるように。それに気づいた瞬間、リリアは全身の毛が逆立つほどの嫌な予感に襲われた。


「まさか……【姉障壁】!!」

「———ガァアアアアアアアッッ!!」


 本能の叫ぶままに【姉障壁】を展開するリリア。その直後のことだった、リリアに眩い光と轟音、そして衝撃が襲いかかる。

 光が収まった後、リリアの周囲の場景は一変していた。リリアの立っていた場所以外の地面は抉り取られ、木も何もかも無くなっていた。


「ブレス……」


 それは竜種が使うことで有名な、強大無比な力を秘めた砲撃だ。竜種を最強たらしめる技の一つだ。しかし、竜種の中でもアースドラゴンだけはこのブレスを使えないはずだったのだ。だからこそリリアは驚愕していた。


「遠距離攻撃も手に入れたってわけね。離れてても気を抜けないってこと……」


 アースドラゴンにとって負けることとは死ぬこと。だからこそ、リリアに勝つために手にできるだけの力を持ってこの戦いに挑みに来ていた。その一つがブレスだったというわけだ。


「以前よりも強くなってる……でも、強くなったのはあなただけじゃない。私だって前のままじゃない」


 グッと拳を握るリリア。その目には闘志の炎が宿っていた。

 そう、強くなったのは、力を手にしたのはアースドラゴンだけではない。


「あなたを倒す。それだけを考えてこの二日間訓練してきた……その成果を、あなたの身に叩き込んであげる」

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