第10話 リリアは愛を語る
セルジュとの戦いを終えたリリアとシュウは街の中へと戻って来ていた。
「まぁまぁいい運動になったかな」
「魔物退治をいい運動って言うなよ……」
「ミノタウロスがあれだったけど、それ以外の魔物は別に強いってわけでもないし」
「そうだけどよ。あー、まぁいいか」
なおも何か言い募ろうとしたシュウだったが、もはや何を言っても無駄だと思ったのか言葉途中で言葉をきる。
「なに、言いたいことあるならはっきり言ってよ」
「言っても無駄だろ」
「無駄かどうかはシュウが判断することじゃなくて、私が判断することよ」
「んー、それじゃあ言うけどさ」
「あ、やっぱりいいわ」
「どっちだよ!」
「シュウに小言言われると思ったら無性に腹が立ったから」
「お前はホント自由人だな!」
「それほどでもないって」
「褒めてねぇよ!」
「そんなことより、向こうからシーラが来てるけど」
「あ?」
「おーい、二人とも大丈夫だった?」
「ただいまシーラ」
「おかえり。怪我とかしてない?」
「うん、私は大丈夫だよ」
「俺も大丈夫だ」
「あんたには聞いてないけど」
「んだと!」
「もう、そうやってすぐ喧嘩しないでよ。シーラも、ホントはシュウのことも心配してたんでしょ」
「そ、そんなこと……ないわけでもないけど……そ、それはほら、こんな奴でも一応幼なじみだし、何かあったら寝覚め悪いじゃない」
「はぁ、素直じゃないなぁ」
「私はいつだって素直よ」
「ホントに?」
「ホントホント」
「ホントにシーラが素直なら気持ちを伝えれるはずなんだけどなぁ」
「な、なんの話よ」
「さー、何のことかな」
「も、もうそんなことどうでもいいから。それよりも今日の夜ご飯どうするの? 帰るのは明日なんでしょ」
「んー、まだ決めてないかな。この時間だとお母さんもまだ作ってないだろうし」
「良かった。それじゃあ家に来てよ。お客さんからもらった食材があるんだけど、早く食べないといけないものもあるからさ」
「そうなの? 私は全然いいけど」
「その……あれだったらシュウも来ていいけど。どうする?」
「お、マジか。じゃあ行く行く。じゃあちょっと先に家帰って着替えてくるわ。後でお前の家行くな」
「良かったね」
走り去っていくシュウの背中を見送りながらリリアがポツリと呟く。
「なにがよ」
「はー、まさか親友が私をだしにして想い人を夕食に誘うなんて。私悲しいなー。利用されちゃったなー」
「べ、別にリリアをだしにしたわけじゃ……っていうか! 別に利用したわけじゃないから!」
「あはは、わかってるって。でもさ、もうそろそろ普通に夕食ぐらい誘えるようになったら?」
「う……わかってるけど……アタシの口はご飯一緒にどう? って言おうとすると自動的にあんたバカ? に変換されるのよ」
「なにそのいらない機能。でも、誘う気はあるんだ」
「そりゃ私だってもう17歳だし……いつまでものんびりしてたら他の娘にとられちゃいそうだし」
「まぁシュウに限って大丈夫だと思うけどね」
シュウがシーラの想い人であるというのは街の人ならだれでも知っているような事実だ。いつくっつくか、くっつかないか、というような賭けまで行われているほどだ。もちろん街の若い娘達もそのことは知っているので、わざわざシュウにちょっかいを出す者はいないのだ。
「それが、最近シュウにやたらと馴れ馴れしい女がいるのよ」
「え、誰それ」
「最近他の街から来た娘。警備隊の事務の仕事に就いてるみたいで……シュウにちょっかい出してきてるのよ」
「ふーん」
「なんでそんなに興味なさそうなのよ!」
「興味ないってわけじゃないけど、でも結局それはシーラがなんとかするしかないことでしょ。私に言われてもどうしようもないし……力業でいいならなんとかできるかもだけど」
「それは止めて」
「あはは、冗談だって。そんなことするわけないし」
「あんたがハルト君を守るためにしたこと考えたら冗談に聞こえないの。そういえばさ、アタシのことは置いといて、ハルト君はどうなの? 頑張ってる?」
「ハル君? もちろん頑張ってるよ。私との早朝訓練も泣き言一つ言わずについてきてくれるし」
「そうなんだ。ハルト君頑張り屋さんだしね」
「そうなの!」
きゃるん、という擬音がしそうなほど目を輝かせるリリア。それを見た瞬間、シーラはまずいことを聞いてしまったかもしれないと瞬間的に後悔した。しかし時すでに遅し。
「ハル君たらとっても頑張り屋さんで健気だから、私が言ったことはすぐに吸収して覚えてくれるし、まだ早いかなーなって思いながら教えたことでも一生懸命覚えてくれようとするし、できなかったら次の日の朝の早朝訓練までにどうしたらいいかとかちゃんと考えて、自分なりの答えを持ってくるの。木剣での打ち合い訓練をするときなんかは私はもう罪悪感で潰されそうになっちゃうけど、これもハル君のためだからって言い聞かせて一生懸命我慢するんだけどね。私とハル君だとやっぱりまだ私の方が強いからさ、それでもハル君は諦めずに毎日毎日私に喰らいついてきて、あー成長してるなーって実感できるの。あ、そういえばね木剣で強めにハル君のことを打ち据えちゃったことが一回あるんだけど、その時涙目になったハル君の可愛さといったらもう、もう! 私の中に思わず何かが目覚めそうになっちゃった。ハル君ってほんと笑顔はもちろん泣いてる顔も怒ってる顔まで最高とか非の打ちどころなさ過ぎて私もうどうしたらいいかわからなくて。あぁホントたまらない! それにね、最近は可愛いだけじゃなくてカッコいいところもあって、あぁハル君も男なんだなぁとか成長してるなって感じさせられるの。そんなんだから変な虫がつかないか心配なんだけど、こればっかりはこれからも私が頑張るしかないんだけどね。過保護だってみんな言うかもしれないけど、変な女をハル君に近づかせるわけにはいかないじゃない。たった一人の最愛の弟なんだから。まぁ、それでも最近イルとかリオンとかいるけどさ。それはともかくハル君の可愛さとかカッコよさはもう日に日に成長していってるの。私はその全てを目に焼き付けたい。一日たりとも逃したくないの。あぁハル君ハル君、どうしてあなたはそんなに可愛いの? あなたが可愛すぎてお姉ちゃんは人生がツラい」
一気にまくしたてるように話され、シーラは若干引きながらも相槌を打つ。
「う、うん。そうだね。わかる。わかるよー。あ、ごめん。それじゃあアタシ夕食の用意があるか——ら?」
「何言ってるの。まだ話は終わってないけど」
「いや、だから夕食の用意が……」
「大丈夫すぐ終わるから」
「そう言って終わった試しないじゃない! ちょっと、聞いてる? リリア? いやぁあああああ!」
シーラの言葉を無視して再びハルトへの愛を語り始めるリリア。それはどっぷりと陽が沈む頃まで続いたのだった。
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