第二章 王都襲撃編
第1話 お出かけ日和
「王都の中を散策したい?」
王都に戻ってきた翌日、ハルトが部屋で本を読みながら勉強をしているとリオンがいきなりそんなことを言い出した。
「そうじゃ。妾も長い間あの洞窟におったからのう。体を顕現させて行動できる範囲も狭かった。いけてせいぜいあの村くらいじゃ。だから今王都で流行っているものを知りたいのじゃ。妾は今どきの若い女子じゃからのう」
「今どきの若い子はそんな喋り方しないと思うけど」
「喋り方などどうでもよいのじゃ。とにかく、鍛練もせぬというのなら街を散策くらいしたのじゃ」
「そうだなぁ……」
今、リリアは王都を離れて実家へと戻っている。すぐに帰って来るとは言っていたものの、帰って来るのは明日になるはずだ。つまりそれまでハルトは自由ということになる。特に何をしておけと言われているわけでもないのだから。それでも朝に起きて木剣の素振りだけはしたが。
「うん、いいんじゃないかな。今日は特にすることもないし」
「ホントか! では行こう、すぐ行こう!」
ハルトが了承すると、子供のように目を輝かせてハルトの手を引くリオン。
「ちょ、ちょっと待ってって。行くのはいいけどその前にアウラさん達に声かけておかないと。急にいなくなったら迷惑かけちゃうかもしれないし」
「なんじゃ主様は。その程度のこと気にしなくてもよかろうに」
「ダメだよ。それじゃあ言ってくるからちょっと待ってて」
「すぐに戻って来るのじゃぞ!」
「はいはい」
リオンの幼い見た目も相まって、子供のわがままに付き合っているような気持ちになったハルトは苦笑しながら部屋を出て行く。
ハルトが泊っているのは王都にある神殿だ。様々な人が行きかうなか、ハルトはアウラの姿を探す。
「あれぇ、後輩君じゃん。どうしたの?」
「あ、エクレアさん。こんにちは。実はアウラさんを探してるんです」
「アウラを? どうして?」
「えーと、リオンに言われて一緒に街の方に行くことになったんですけど。その前にどこに行くかだけ言っておこうかと」
「あー、なるほどね。そういうとこアウラうるさいもんねぇ。アタシも勝手に出かけて何度怒られたことか。まぁ、今となっちゃもう何も言われないけど。でもそっか……アウラなら今ちょっと出かけてるよ」
「そうなんですか?」
「神殿長に呼ばれてね。あのくそじじ——ごほん、あいついつも自分が動くの面倒だからって呼びつけやがるのよ。だから帰って来るのは夕方ごろになると思う」
「そうですか……どうしましょう。他に誰か……」
「エクレアさんにハルト君じゃないですか。こんな所でどうしたんですか?」
アウラがいないと聞いてハルトが困っていると、後ろから声が掛けられる。そこにいたのはタマナとパールだった。
「今パールと一緒にハルト君の所に行こうとしてたんですよ。ちょうど良かったです」
「ボクの所に? 何かありましたか?」
「いえ、パールが買い物に行くそうなので、それならついでにハルト君に王都でも案内してあげたらどうかなって思ってたんです」
「お、それはタイムリーな話だね。良かったじゃん後輩君」
「? どういうことですか?」
「今ちょうど後輩君もでかけようとしてたみたいでさ。その話をしてたんだよ」
「お、そうだったんですね! ちょうどよかったじゃないパール」
「はい。一緒に行ってくれますか?」
「もちろん。案内してくれるっていうなら願ったり叶ったりだし。ボクの方からお願いしたいくらいだよ」
「そう言ってくれると嬉しいです。それでは三十分後に入り口で待ってますね」
「わかりました」
「あ、そうだ。後輩君、街の方にいくならついでに甘い物でも買ってきてよ。食べたかったんだけど、自分で行くのは面倒でさ。ケリィも嫌だっていうし」
『ボクは敵を斬るためにあるんであって。君のパシリじゃないよ』
「いつもこう言ってね。ケチくさいったらありゃしない」
「甘いものですか。なんでもいいんですか?」
「そこはそれ、後輩君のセンスに任せるよ。アタシの好きそうなの選んできてね」
「え? いや、そんなこと言われても……」
「じゃあ、お願いねー」
話は終わったとエクレアは戸惑うハルトを放置して去ってしまう。
「ボク、エクレアさんの好きな物とか全然知らないんですけど」
「あはは、まぁエクレアさんってホントに自由な人ですから。まぁ何買ってきても大丈夫だと思いますよ」
「だといいんですけど」
「そうだ。ついでにイルさんも一緒に連れて行ってあげてくれないかな」
「イルさんもですか?」
「そう。せっかくだし。イルさんも色々と必要なものがあるはずなんだけど、私達の世話になるのが嫌なのか知らないけどオレは何もいらないーって一点張りだからさ。ハルト君と一緒なら普通に買い物してくれるかもって」
「ボクはいいですけど……でも、イルさんが一緒に行ってくれるかどうかはわかりませんよ」
「大丈夫よ大丈夫。ハルト君が誘ったら一緒に行ってくれるはず……たぶん。なんとなくそんな気がする」
「なんとなくって……」
「えぇい。こういう時男は度胸よ。思い切ってイルさんをデートに誘いなさい!」
「デートって、リオン達も一緒に行くんですけど」
「それはそれってやつね。イルさんなら今は部屋で勉強してるはずだから」
タマナさんにそう言って背を押されたハルトはイルの部屋へと向かうことになるのだった。
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イルの部屋の前までやって来たハルトは少しだけ緊張していた。よくよく考えれば女の子を誘うなんていうことをしたことがなかったからだ。ユナ達と一緒に居た時にはいつもユナ達の側から誘われて遊びに行っていた。
しかし約束パールとの約束の時間まではいくばくもないと決意を決めたハルトは思い切って部屋のドアを叩く。
「……誰だ」
「あの、ハルトだけど」
「ハルト? まぁいいぞ。入れ」
イルの許可を得て部屋の中に入るハルト。イルの部屋の中はハルトが思っていたよりもずっと女の子らしい部屋になっていた。ぬいぐるみが置いてあったり、部屋の色調がピンクっぽかったりと。
「あんまり部屋の中ジロジロみるなよ。恥ずかしいんだから」
「あ、ごめん。でも意外でさ」
「オレだって好きでこんなもん置いてるわけでも、こんな色のもん使ってるわけでもねーよ」
「そうなの?」
「当たり前だろバカ。お前だって知ってるだろ。オレは元男なんだぞ。これは神殿の奴らの趣味だよ。あいつらオレが少しでも女っぽくなるようにってこんな部屋にしやがって……余計なお世話だってんだ」
「あはは、そうなんだ」
「こっちは笑い事じゃねぇっての。それでなんだよ。用でもあんのか?」
「あ、そうそう。あの、今から街に行こうと思うんだけどイルさんも一緒に行かない?」
「は、はぁ?! お、おま、何言ってんだよ!」
「え、何って……だからイルさんと一緒に街に行こうって」
なぜか顔を真っ赤にして狼狽するイル。その意味がわからないハルトは先ほどと同じ言葉を繰り返す。
「だ、だからそれだよ! なんでオレがお前と二人で街に行かないといけねぇんだよ!」
「あ、二人じゃないよ。リオンもパールさんも一緒だから」
「は?」
「そもそもリオンが行きたいから行こうって話になったんだけどね。せっかくだからイルさんも一緒にどうかなって」
「…………」
「イルさん? どうしたの?」
「……なんでもねぇ。オレが馬鹿みてぇだって思っただけだ。でも街に行く用事とかオレねぇぞ」
「そこはそれ、せっかくだからさ。イルさんも朝から勉強してたんでしょ。息抜きだと思って」
「……はぁわかったよ。確かに今は勉強くらいしかやることないしな」
「それじゃあ用意ができたら入り口に来てくれる? ボク達そこで待ってるから」
「わかったよ。それじゃあまた後でな」
こうしてハルトは、リオン、イル、パールの三人と共に街へと向かうことになったのだった。
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