第88話 ウェルズの狙い
ウェルズが外にやって来ていると聞いたリリアは、ハルトとイルを部屋に残して外に出た。診療所の外では、ウェルズが他の帝国騎士達を後ろに従えて待ち構えていた。
「今日で期日の三日目だ。それで、犯人はわかったのか?」
ウェルズの言い方はリリアが犯人を見つけることができていないと思っていることがわかる表情だった。後ろの騎士達もニヤニヤとしている。
「犯人は見つけました」
「ほう、それはそれは。良い報告じゃないか」
全くそう思っていなさそうな声音でウェルズが言う。どこか奇妙な流れになっていることを感じながらも、リリアにはウェルズの考えが読めずにいた。
「それで、犯人は誰だったんだ?」
「村長のローワさんです」
「なんだと?」
さすがにローワが犯人であったというのは予想外だったのか、少し驚いた様子を見せるウェルズ。しかし、次の瞬間には平静を取り戻す。
「なるほど……それで、今村長はどうしているんだ?」
「家で捕まえてます。本人も認めてますし、逃げる様子もありません」
本当はローワとシアの二人が犯人なのだが、今この場にシアはいない。まして、シアがワーウルフに体を乗っ取られ、彼女が主犯として動いていたといった所でその証拠はない。だからリリアはシアの名は伏せておくことにしたのだ。
「ふむ……」
しかし、ローワが犯人だと聞いたウェルズの反応は芳しくなかった。やがて口を開いたウェルズは衝撃的なことを言い出した。
「それを信じることはできないな」
「……どういうことですか」
「そのままの意味だ。この村で殺しが起きて、その犯人が村長であるローワであった。おかしな話じゃないか。むしろローワが本当の犯人を庇っていると考えたほうがつじつまが合うというものだ」
「そんなことありません! 私は実際にローワさんに殺されそうになったんですから!」
ウェルズの言葉を聞いたタマナが自身がローワにされたことを元に反論するが、ウェルズの反応は冷ややかだった。
「ほう、殺されかけたと……それを誰が証明する」
「証明?」
「君が殺されかけたという場面、それを目撃したのは誰だね」
「それは……リリアさん……だけです」
「君が殺されかけた場面を目撃したのは、君の仲間であるその少女だけ。口裏を合わせていると疑われてもしょうがないだろう」
「そんな」
ウェルズの言っていることはおかしい。そんなことはリリアにもタマナにもわかっている。しかし、実際問題としてローワが犯人であるというのはローワ自身の証言と、リリア達がローワに襲われたという事実の元に成り立っている。それをウェルズ達が信じないと言うならば、リリア達にウェルズを説得する有用な手段はなかった。
しかしだからこそリリアは理解した。ウェルズ達が、元から犯人を求めていたわけではなかったということを。
「信じないと言うなら……どうするつもりなんですか」
「そうだな……最初に言った通り、君のことを殺す。もしくは拘束する……ということも考えたのだが。前途ある若者を殺すというのは忍びないという風に考えが変わってね。代わりを求めることにしたんだ」
「代わり?」
「聖剣を貰おう」
ウェルズの言葉に、リリアはようやく得心が行く。結局の所、ウェルズ達は最初から聖剣が目的だったのだ。むしろそのためにわざとサルドを殺させたのではないかという気すらしてくる。その真実を知るのはウェルズ達だけだが。
「そう言われても、聖剣のことなんて私知りませんよ」
たとえどんな理由があったとしても聖剣を渡すわけにはいかない。そう思ったリリアは誤魔化す。
「昨日のことだ……私の仲間が巨大な、そして特異な魔力を感知したんだよ。東の森の方からね」
「……それが?」
「昨日、君達はその森から帰ってきたそうじゃないか……《勇者》の姉である、リリア・オーネス君?」
「っ!」
「これは最大限の譲歩だ。我々も仲間を殺されておきながら手ぶらで帰るわけにはいかない。もし聖剣を持ち帰ることができたなら……その限りではないんだがね」
「…………」
「リリアさん……」
不安気な声を上げるタマナ。ウェルズ達に向かって舌打ちをしたくなる気持ちをリリアはグッと堪える。診療所の奥に《勇者》であるハルトが、そして求めている聖剣があるということにウェルズは気付いている。渡すわけにはいかない。しかし、その方法がリリアには思い浮かばなかった。
最悪実力行使ということも考えたが、今のリリアではウェルズ達を相手にして勝てるとも思えない。
「命か剣か……考えるまでもないと思うがね」
いよいよリリアが追い詰められようとしたその時だった。
バリバリバリという轟音と共に雷が、リリア達の目の前に落ちてきた。
「きゃぁっ!」
「いったいなんだ!」
急なことに驚くリリア達。空は晴れている。雷が落ちてくる要素などどこにもないはずだった。しかし実際問題として、雷はリリア達の目の前に落ちてきた。
あまりの音と光に顔を背けていたリリアが雷の落ちた場所に目を向けると、そこには人影があった。
「あー……面倒だなぁ」
その人物は、雷をその身に纏いながらゆっくりと立ち上がった。
「誰?」
「あなたは!」
見知らぬ人物の登場に警戒するリリアだったが、隣にいたタマナの反応は違った。知っている人、しかし思いもよらぬ人が現れたことに驚いていたのだ。
「エクレアさん!?」
リリア達の前に現れた人物、それはシスティリア王国最強の《勇者》であるエクレアだった。
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