第34話 宿への帰り道にて
街で買い物をして戻ってきたリリアが目にしたのは楽しそうに話すハルト達の姿だった。もっとも、楽しそうにしてるのはハルトとタマナだけでイルは二人が何かを言うたびに怒って言い返しているばかりだったが。しかし、それすら含めてリリアには仲良く見えたのだ。
(案外ハル君とイル達は上手くやっていけるかもしれないな)
少しだけ心配していたリリアだったが、その心配はもう必要なさそうだと少しだけホッとする。
(ま、だからってあんまり仲良くし過ぎるのは許さないけど)
あくまで友人として、ならリリアはハルトと仲良くすることを認める。それ以上の関係を望む者がいたならその時は……と、密かな決意と共にリリアは部屋の中へと入る。
「ハル君、もう起きて大丈夫なの?」
「あ、姉さん!」
「怪我はどう? 痛む?」
「うん、まだちょっと痛いけど……もう大丈夫かな」
「そう。なら良かった」
「その……ごめんね姉さん。結局何もできなくて、迷惑かけちゃって」
「そんなことないよ。私こそごめんね。私がもっと強かったらハル君やタマナさんに怪我をさせることもなかったのに」
「そんな、姉さんは悪くないよ! ボクがもっと早くから強くなろうとしてたら——」
「あー! うっさいなぁ! どっちも悪くないでいいだろ! お互いありがとうだけでいいだろうが! しつこいんだよ。オレまだ二日酔い残ってて頭痛いんだから。目の前で謝り合戦されると気が滅入るんだよ!」
「「…………」」
「な、なんだよ」
「イルさんって結構あれですよねぇ」
「あれってなんだよ!」
「優しいなって」
「はぁ!? んなわけねーだろ!」
ニコニコとしたタマナに言われたイルは顔を真っ赤にしながら否定する。やいのやいのと言い合う二人をよそに、リリアとハルトは互いの顔を見合わせてフッと笑い合う。
「イルの言う通りね」
「そうだね」
「ありがとうハル君。初めての実戦なのによく頑張ってたわ」
「うん。姉さんもありがと。姉さんがいてくれたからボクも戦えたんだ」
「それじゃあご飯にしましょうか。今日は大事をとってこのままここに泊まることになるわ。私とイルは宿に帰ることになるけど……大丈夫? 寂しくない?」
「もう。大丈夫だよ。ボクももう十五歳なんだから」
「ホントに?」
「あ、リリアさん大丈夫ですよ~。ハルト君一人じゃなくて私も一緒ですし~」
「……やっぱり心配だから私も一緒に泊まろうかな」
「なんでそうなるんですか! そこはタマナさんお願いしますでいいじゃないですか」
「……いいですかタマナさん。私がいないからってハル君に変なことしようとしたら……」
「ひぃっ! し、しません! しませんから!」
リリアから放たれる黒い気配にビビり倒したタマナは首振り人形のように一心不乱に首を振り続ける。
そんな年長者組のことをハルトとイルは苦笑しながら眺めていた。
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ご飯を食べ終わった後、早めに休んだほうがいいということでリリアとイルの二人は診療所から出て宿への帰路についていた。
「調子はどうなの?」
「あ?」
「あ? じゃないから。もっと女の子らしい言葉遣いしないと結婚できないわよ?」
「うっせぇ。別に結婚なんざする気ねぇからいいんだよ。っていうか、オレは絶対男に戻ってやるんだからな」
「無理だと思うからさっさと諦めたほうがいいと思うけどね」
「ぐっ、そ、そんなのやってみなきゃわかんねーだろ!」
「ま、あなたがそういうならいいけどね。言葉遣い変えるのは私も難しかったし」
「難しかった?」
「……まぁ、それはいいじゃない。それよりも答えてもらってないわよ。体調はどうなの?」
「体調ならまだもうだいぶマシにはなってるけどな。誰かさんがハルトのことを見てろなんて言って起こさなけりゃもっと早く良くなったんだろうがな」
「そう。良くなってるならよかったわ。ハル君達もあの様子なら明日には動けるだろうし、予定通り明日には村に行きましょう」
「オレの皮肉は無視かよ。そういえばよ」
「なに?」
「前から気になってたんだが、お前……なんでそんなにハルトのことが好きなんだよ」
「なんでって……弟だもの。私は姉で、ハル君は弟。なら愛するのは当たり前でしょう?」
「いや、それにしてはちょっと異常な気がするけどな」
「そんなことないわ。姉道その一、姉たるもの、いつ何時も弟妹の味方であれ! ってね」
「なんだよそれ」
「……私の尊敬する人の言葉よ」
「ふーん、ま、なんでもいいけどよ」
「あなたにもお兄さんがいるんでしょう? 仲良くないの?」
「兄さま達は……オレに興味がないから」
「興味が無い?」
「だってオレは……って、なんでそんなこと言わないといけないんだよ! ほら、さっさと宿行くぞ、オレもう疲れてんだよ」
「ふぅ、はいはい。わかったわよ」
いきなり怒り出したイルはさっさと先に進んでしまう。リリアはしょうがないと言った風にため息を吐いてイルの後について宿へと帰るのだった。
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