25日目 井戸端
彼曰く、あのときに見かけたお姉さんかもしれない。
***
「それでさ、この間配達に来てくれた人が女の人だったんだけど、もうすっごい美人さんでね!足も細くてすらっとしてて、もうびっくりしちゃったのよ」
「あら~~そうなの、そんなに美人さんだったのね~」
出勤する道すがら、奥様たちの井戸端会議を聞きつけました。
奥様と呼ぶか、おばさまと呼ぶかで印象が変わるかもと一瞬思いましたけど、どちらにしても敬称には変わりなし、気にしません。
とにかくご婦人方のお話が耳に入ってきました。
ほんの一瞬しか聞いていないので全然わかりませんでしたが、どうやら一方が定期便か何かでお願いしている配達セットの配達員の方がそれはもう美人だったという話のようで。
女性の方というとヤクルトレディとかでしょうか。
ヤクルト1000の人気はものすごいと聞き及んでいます。
会社の先輩でも数人、さっそく配達を依頼して効果への期待に胸高鳴らせている人も。
寝起きがいいとか、逆に寝つきがいいとか、血圧便通代謝などの健康面の向上を実感するとか、大なり小なりの変化はある様子。
ヤクルトレディは横のつながりが強いと言いますし、このご婦人方への売り込みも実は知り合いの知り合いあたりから訪問先を聞いたりして営業に来ていたりするのかもしれません。
ヤクルトレディ、侮りがたし。
地域コミュニティならではの営業力なのかもしれません。
実際は注文が入った場合だけなのかもしれませんがね。
それにしても、日常の些細なことで盛り上がることのできるご婦人方の会話の種の発見力には素直に感心します。
大きいことは大きくそのまま、小さいことでもそれなりの大きさの話題に育ててみせる。
小学生のとき、母の買い物についていったときに近所のママ友と会うと必ず話し込んでしまうのを毎回ぶすーっとむくれた顔で待っていたのが懐かしいです。
当時は全く興味も沸かず、帰りの動線上にあるたこ焼き屋さんの手さばきに夢中になっていましたが、その裏で母たちも壮大な手品を披露していたのかもしれません。
そう思うと当時の井戸端会議を聞いていなかったのは悔やまれます。
友達の弱点とか、かっこいいお兄さんの話とか、美人のお姉さんの話とかを聞いたりできたかもしれないのに。
ちょっとだけ、もったいないかなって思いました。
今まで無視していた小さなことに気付かせてくれた名も知らぬおばさま方に感謝しながら、出勤ルートをひた歩きました。
ちなみに余談ですが、もっすごい爽やかな笑顔でヤクルトを持ったお姉さんに「ぜひ定期便を始めて健康な体を手に入れませんか?」って誘われたら、間違いなく諸手を上げてしまうでしょうね。
そうならないようにするために、普段からの健康を意識していこうとひそかに拳を握りました。
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