11日目 美容院
彼曰く、いったいどこまで伸ばすんすか!
***
2カ月に1度の美容院。
そろそろお店変えようかなとも思いつつ、結局同じところに通っている私はきっと意気地がないのだろう。
でもそれでいい、それがいい。
多少なりとも気心知れている人と話せる機会がある方が、ただ生きるだけのに地上よりもきっといいことがあるでしょう。
そんな行き慣れたお店に、案の定5分遅れで駆け上がる。
「今日は暑いのか寒いのかわかんないですね!」
洗髪台に通されて開口一番、遅刻の言い訳に出た言葉がコレ。
確かに若干汗がにじんではいるけれど。
季節は冬、外には残雪。
弱めの北風が吹いている祝日の朝の感想としてはどうだろう。
「イヤイヤ、暑いってことはないっすね!」
ふさわしくなかったらしい。
シャンプー担当のお兄さんに、にこやかに渾身のボケを弾かれてしまった。
ボケの精度を上げなければ。
「そういう問題じゃないっすね!」
美容院でいつも悩むのは、どれくらい切るかと、パーマをかけるかと、色を入れるか。
店を予約する時点で決めておけばいいものを、私はいつも決めずに入店してしまう。
予約してから1週間も時間があれば何かしら決められそうなものなのに、どんな髪型がいいのかわからない。
その日のフィーリングを頼りにしても、今までの生活ルーティンから結局「いつもの」を注文してしまう。
行きつけのバーじゃないんだから、そう少し髪型にもバリエーションを持たせたらいいのに。
安くない代金を払っているんだから、たまには大きくイメチェンを狙ってもいいじゃない。
そんな風に言われても、なかなか一歩を踏み出せないのがこの私。
次回パーマをかけようかな、というはっきりしない理由で現状の長さキープの、量を梳くというので落ち着いた。
「どこまで伸ばすんすか?」
「いやーーー」
お兄さんのもっともな疑問にも煮え切らない顔で返事とする。
果たしてこの春、私は本当にパーマを当てるのか。
現実になるか、虚実になるか、未来の私の髪型は神様のその時の私しか知らない・・・。
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