6日目 2人目
彼曰く、これは浮気じゃない。
***
カフェ店員というのは入れ替わりが激しい。
数あるアルバイトの中でも人気が高く、比較的簡単に採用されるイメージが強い。
落とされる理由にはいくつかあるんだろうけれど、基本的な受け答えと人並みの礼節を持っていれば「不採用」の烙印を押されることはまずないだろう。
私自身カフェでアルバイトをした経験はないのだけど、きょう周防率が高いことは知っている。
カフェ店員というのは、現代ではある種のステータスでもある。
私がよく利用するカフェ、スターバックスはその中でもはるかに高い採用難易度を誇っている思われる。
「スターバックスにはマニュアルがない」
そういわれるほどに、採用される人材の人徳と知性は非常に高い。
優しさと温かさに包まれた空間づくりは人材登用から始まっているのだ。
一元化したテキストを使用せず、現場での判断、工夫、自主性を重んじる。
現場を人材育成の場としてとらえ、店舗や店長の権限、責任の下でスタッフ育成を委任する。
テキストやビデオの類は存在せず、先輩とのコミュニケーションによって仕事を覚えていく。
スタッフと店長とは定期的に面談を行い、ここの目標確認や成長を促すための目的意識を作ることを意識しているらしい。
現場で互いに教え合う環境ができているからこそ、良質なサービスを維持するため、一人一人の接客に熱意がこもってレベルの高い水準を保っていられる。
とはいえ、私たちの考える「マニュアル」がまったく存在しないわけではない。
スタバ店員はパートナーと呼ばれ、まず最初に「パートナーガイド」を渡される。
衣類や髪型などの身だしなみや基本的なルール、知識が書かれており、アルバイト全般における基礎知識ともいえる。
「グリーンエプロンブック」にはスターバックスの会社経営における理念がまとめられている。
スタバというホスピタリティがどこから生まれるものなのか、会社として大切にしている価値観を学ぶことができ、スタッフは必ずこれを読むことになるという。
スタバ店員と言えば緑色のエプロン、これが冊子の名称の由来だ。
「ラーニングジャーニーガイド」という、いわゆる新人教育用の冊子も存在し、スターバックスにおいて学び続けるためのガイドとなっている。
接客の手順など、日本人が求めがちな「定められたやり方」については全くないが、それがなくても機能するような環境づくりの下地はしっかりしている。
スタッフそれぞれが高い目標意識を持って働くことができているからこそ、誰もが安心して、気持ちよく利用できる空間づくりに成功し、スタバブランドが確立しているというわけだ。
そしてそういう場で働いている人は概して「カッコいい」。
さわやかな笑顔、ゆっくりした接客口調、お客それぞれへの迅速な対応。
いつ覗き見てもハイレベルだ、勝てる要素が見つからない。
なかなかどうして、こういう場にいる人はなぜか顔もいい感じなのだ。
「カッコいい」「かわいい」「美しい」が集まる習性でもあるのだろうか。
実に不思議なものだ。
年末年始、夜頃になると店長らしきブラックエプロンの人が客席の1人に書類を渡したりしている光景をよく見かけた。
アルバイトの面接にやってきたのだろう、ぜひともこの働き方を経験して素敵な大人になってほしいと思ったものだ。
次々と新しく採用される人が店頭に立っているらしく、先ほど接客してくれたスタッフは初めて見た気がする。
彼女はとても活き活きとしていた、所作一つ一つに美意識を感じる。
これがハイソサエティな人間か・・・。
推しがまた一人増えてしまった。
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