3日目 マグカップ
彼曰く、このマグカップは抽出2回分の大きさなのよ。
***
会社に最新のコーヒーサーバーが導入された。
準備が少しだけ大変だけど、これまで利用していたカウンターサイズのものよりもかなり大容量。
コーヒー豆と水さえ満タンにしておけば、100人ほどいる社員が全員5杯は飲めるのではないかと言われている。
1日に5杯もコーヒーを飲む人間がいるの?と言われそうだけれど、意外や意外、この会社にはコーヒーを飲みたがる人間が多い。
業界の体質的にブラックより名この会社では、絵を描き切るのに時間がどうしても必要になる。
長時間労働のお供と言えば、カフェイン、つまりコーヒーだ。
出社してまず最初にブラックコーヒーを飲む人も多いが、もちろんコーヒーを苦手とする人や飲まない人もいる。
以前のサーバーではブラックコーヒーしか作れず、ミルクやシュガーを入れて自分で調整するほかなかったし、コーヒー以外を飲みたい場合はインスタントのココアスティックやカフェオレスティックをデスク引き出しにストックしておくしかなかった。
しかし最新のサーバーは会社では少数派になる人たちのために様々な種類のフレーバーを搭載している。
コーヒーはコーヒーでもエスプレッソ、カフェチョコ、カフェモカ、カフェオレ、カプチーノ、カフェアメリカーノと、濃いめから甘めまで取り揃えている。
ブラックコーヒーが苦手な人でも甘ければ飲める人にはありがたいサービスだ。
「なんだ、コーヒーしかないのか・・・。コーヒー飲まないんだよなぁ」
なんて人にも朗報。
ココア、ミルクココア、ホットミルクのボタンもあるため、「私は生涯水しか飲まない」という固い意志をお持ちの人以外ならばほぼカバーできてしまうスペシャルマシーンなのだ。
「コーヒーサーバー、もっといいのが欲しい」
「1日に何回も入れ替えするのが大変」
新人がコーヒーサーバーの管理を任されることが多いわりに、この業界、新人に求められる仕事量が多すぎるため、どうしても気が回らずにコーヒーが尽きたまま放置されるのもしばしば。
そのたびに新人が呼び止められて仕事が止まり、迅速さが求められる納期間近のタイミングでこれが常態化してしまうと「できない子」認定されてしまう悪循環。
従来の仕事体質が招いた悪評が、新しい社員の評価に響くというのは間違いなくおかしい。
そんな理由も一役買い、最新サーバーを設置する運びとなった。
「あれのおかげで朝昼晩とコーヒー飲むようになったわ」
今までコーヒーを飲んではサーバーを空にしていた私も、気兼ねなくマイマグを持っていくことができるようになった。
一日を始めるとき、気分を変えたいとき、コーヒーがマグカップに注がれている時間が安らぎのひとときになる。
「あ、梅さん。こないだは話し合い助けてくれてありがとうございました」
「やほー、お疲れ。よくあることだから気にしないで。私は器が大きいからね」「さすが、何かあったらまた頼りにしてますよ。って、またコーヒーですか」
「いいじゃん、たくさん飲めるんだもの。君もコーヒー?」
「いや、自分ココア派なんで、コーヒーは。でも飲んでる人たちがいるおかげで、仕事の甲斐があるなって思いますよ」
「新人はやらないといけないことが多くて大変だ。1年目の時は私もそうだったけど、当時と比べたら減った方だと思うよ」
「らしいですねー、まあ自分はまだまだなんですけど」
ピーー。
「あ、終わりましたよ」
「ピッ、と」
「え、なんでまた押してるんですか。私の番ですよ、譲ってください」
「いやいやダメだよ、もう押しちゃったもん」
「溢れちゃいますよ!1カップ分出るようになってるんですから、それ以上は・・・」
「ふふ、甘いねこーはい。よく見てみなよ、私のマグカップを」
「?」
「これは2回分入れてやっといっぱいなんだよ。私は器が大きいからね」
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