2日目 いちご大福

彼曰く、おばあちゃんがくれるのがなんだかんだ一番おいしいんだよね。


 ***


「毎朝当店で手包みしております」


白地に黒字ののぼりが、冬風を受けてはためいている。


昔ながらの和菓子屋らしい看板文字は金色でかっこよく、いでたちは最近ぽくビルの中に入っても違和感ない。

家から少し歩いたところにある和菓子屋「弁財天」はフルーツ大福を売りにしている、名古屋発祥の和菓子屋である。


フルーツ大福と言えば私にとってはいちご大福のイメージしかない。

初めていちご大福を食べた時には衝撃を受けたことを覚えている。

「世の中にはまだこんな組み合わせが存在してよかったのか・・・!」

粒あんのこってりとした甘み、いちごのさわやかな酸味。

二つを柔らかく包み込む求肥が混然となって口の中で溶け合い、味の次元を一段階上げている。

和菓子の代表、あんこと求肥。

洋菓子の代名詞、いちご。

もしかしたら和洋折衷という言葉はこのスイーツを開発するために存在したのではないかと思ってしまうほどの衝撃だった。

私の中での味の文明開化だったのだ。

それからは苦手だった大福などの和菓子も食べられるようになったし、洋菓子はもちろんフルーツ自体もよく食べるようになった。


粉がこぼれやすいことに最初は難儀したものの、あの美味しさの前には大した障害ではない。

いちごが中に包まれているものも、主張強めに外にはみ出しているものも、味は等しく衝撃的。

最近ではスーパーのほか、コンビニのレジ横でも見かけることが多くなりだいぶ大衆化してきたものの、あの喜びの輝きが失せることはない。

いつ食べても感動の淵にまで追いやってくる、魔性のスイーツだ。


人生で食べてきたものの中で、ベストスイーツを選べと言われたら間違いなく上位ランカーになるだろう。

食べたことのない人は是非食べて見てほしい、あの感動を味わわずに死ぬのはもったいない。

個人的にはおばあちゃんがくれる、いちご大きめの大福が好きなのだけど。

普段頑張っている自分へのご褒美として買ってみるのも乙なもの。


ちなみに覚王山フルーツ大福弁財天、その名の通り様々なフルーツの大福がショーケースに並んでいる。

キウイ、みかん、パイン、マンゴーは通年商品で置かれていて、いちごは冬春の季節商品として扱われている。

季節限定が多く、りんごやマスクメロン、イチジク、シャインマスカット、桃や梨など幅広い。

小さな宝石を自分へのご褒美として買って帰るのも、大人なお金の使い方ってことで。

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