29日目 肉欲

彼曰く、意外に元気が出るもんだ。


 ***


今日は29日。

つまり肉の日。


私は毎月一度は肉を食べておきたい人間。

私以外の誰しもがそうだと思う。

そう信じたい。

肉を食べると底知れぬ活力がわいてくる気がする。

噛んで、噛んで、飲み込んで。

生きているって、こういうことだよなぁ。

肉を目にするたびにそう思う。


商店街の帰り道、昼間になると毎日のように行列ができるメンチカツを売っている店がある。

メンチカツを売っているレジとは別の窓口、広くかたどられたショーウインドウの中に大量の肉塊が陳列されている。

新鮮さを示すかのような赤みが照明を照り返している。

角度を変えるたびきらきらと眩い脂が柔らかそうな肉の上で踊っている。

フライパンの上で焼いたら絶対美味しい。

すでに鉄の上で脂の跳ねる音が聞こえてくる。


最近は自炊をすることも少なくなってしまった。

惣菜のローストビーフばかり食べていたけれど、たまにはいい肉を買うのもいい。

特別いい日だってわけではないが、今日は年末。

今年最後の肉の日だからいいだろう。


そう思って横を見る。

メンチカツの列とは別に、灰色っぽい感情がこちらを向いている。

とぐろを巻いたその列は、すごい形相の人たちだった。

何やらぶつぶつと言いながら前一点だけを見据えている。

まるで戦場に向かうために集められた戦士たちのようだ。

列の整理をしていた男性に、おっかなびっくり聞いてみた。

「この人たちは何を待っているんです?」

「ああ、うちの年末限定の肉ですよ。大安売りするのはこの時期とお盆の2回だけだから毎回こんなもんです」

なるほど、考えることはみんな同じらしい。

「お客さんも並びます?それだったらあちらに回ってください」

「あっち?」

指さす方向に首を振ると、とぐろはひと区画超えたところで折り返し、また別の列を2つも作っていた。

1列が50人くらいだから、ざっと130人くらいいる。

どんだけ肉を食べたいんだ、みんな。


これが抑えられない肉欲というやつか・・・。

でもこれだけ並んでいるということは、やはりおいしい肉ということだ。


気合を入れ直して、行列の最後尾に向かった。

今年最後のいい肉をいただくとしよう。

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