29日目 『倒産続きの彼女』

彼曰く、苦労した分、認めてくれる人がいなくても、自分が認めてあげればいいの。


 ***


『倒産続きの彼女』新川帆立

先々月くらいに読み終わった『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した作者の新作単行本。

単行本を買うのはそれなりの覚悟をもってするものだけど、気になっている作者、シリーズのものだったら財布の紐も緩んでしまう。

いいものにはお金をかけよ、と実家のばあちゃんも言っていた。

最近は膝を悪くしてしまったらしいのだけど、元気にしているだろうか。


そんな私のばあちゃんの状態は、今作とは関係ない。

ばあちゃんを気遣いながら生活している主人公にほだされてしまったらしい。

過度な感情移入はよくないぞ、私。


そんな同情しかけた本作の主人公は美馬玉子みまたまこ

前作『元彼の遺言状』の主人公・剣持麗子と同じ法律事務所に勤める若手弁護士で、彼女の一つ下の代だ。

物語は大学時代からの同期で、別の部署に努める美法みのりと向かった合コンから始まる。

麗子と違い、自分を色よく見せるために努力する玉子は、慣れない合コンをお願いしたものの鼻につく言い方しかできない美法の態度をよく思っていなかった。

恋愛の場において、自分の魅力を上手く伝えて相手を落とすことは必要な努力だと言って譲らない玉子。

対して、合コン相手とは釣り合わないと言い張る美法。

言い合いののち、くすぶる苛立ちを抱えながら帰宅する玉子。

シマばあちゃんの世話というルーティンの朝を迎え、出勤した彼女に舞い込んだ仕事から不穏な影が見え始める。


弁護士という肩書を持つ作者らしい、上手い話の作り方だと思った。

新川さんの言葉選びも私にハマっているようで、読み始めると止まらない。

法律に明るくない私でも、玉子が出会う事件の節々でどういう人物が裏で糸を引いているのかがだんだんとわかってくる。

一方で、読み進めていくとそれとは別の黒幕が現れて物語をかき乱し、主人公が頭を悩ませる。

今回はそこに主人公の謎めいた過去を持ってきていたことで、玉子の動揺を描いていたのが上手いと思った。


恋愛と仕事というのは、人間が暮らしていく中でどっちも重要と言えるし、どちらかだけで生きていこうという人もいるかもしれない。

どちらかと言えばお仕事小説と言える作品群の中で、恋愛の重要性を引き合いに出すのは難しいと思う。

でもあまり出しすぎないのが、新川さんの作品の良さなのかもしれない。

いい具合にほだされそうになっても、断るべき時にはしっかりと断る。

こざっぱりとした主人公の性格がちょうどいい。


今後も追っかけていきたい作者だと改めて思った。

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