24日目 衣擦れ
彼曰く、またそろそろ新しい靴が欲しいなぁ。
***
松竹梅、20代後半にさしかかる。
好きなこと、食べること。
好きなもの、目を惹くもの。
嫌いなこと、心が乱されること。
嫌いなもの、平静を欠いてしまうもの。
最近一番気にしていること。
人に怒られると途端に並行してしまって何も言えなくなってしまうこと。
それと、雨の日に履くべき靴を間違えてしまうこと。
20代後半というと、世間様は私のことを大人扱いしてくる。
私の何を知っているんだ、と言いたくなる私だけれども、大人たるもの、それくらいのことで心を乱しては威厳というものがなくなってしまうということを知っているので、他人様の無知をことさらにつくようなことはしない。
大人様ですから。
十分に知ってしまうくらいには怒られすぎたというのはまた別のお話。
大人ってどういうものだろうと、答えのない問題を考えることをふいにしてしまう。
帰り道のアスファルトの上でファミチキの包み紙を見つけたとき。
電車の席が一つ飛ばしで埋まっているときに座るべきか迷うとき。
昼休憩で外に出ようとして、弁当を持ってきたことを思い出したとき。
カフェで椅子を譲ってほしいと言われて断る中年のおじさまを見かけたとき。
大人って何だろうと思うのだけど、その答えをどうやら私は持っていないらしい。
何かを我慢することが大人になるということなのか、不利益を被ってでも誰かのためを思いやることが大人になるということなのか。
自分のことで精いっぱいな自分には大人になるには踏むべき階段が多すぎる気がする。
何でも我慢できる大人なら、靴擦れも雨の日に指先が濡れても我慢できるだろう。
静かに読書している横で、男子高校生3人組がやたらと騒いでも何も感じないかもしれない。
私は靴擦れするとイライラするし、雨の日に指先が濡れると惨めな気持ちになるし、横で騒がれるとむかむかしてくる。
これでは大人とは言えないわね。
そもそも大人なら、ちゃんと天気予報を見て雨の日には雨の日の対策ができるはず。
靴を変えたり、気温が下がることを見越して温かい服を用意したり、洗濯する日も考えられるのだ。
ちなみにこの1か月、洗った洗濯物を天からの水で再度洗うことになったこと数回の私には、もちろんそんな対策ができていないことは明白である。
最近天気予報とのずれが生じすぎていないか?気象庁。
どっしりとした雲を見上げた朝。
絶対雨が降ると思って傘を持ってきたのに、今日は結局雨が降らなかった。
お荷物になった傘で遊びながら家路につく。
閑静な住宅地にぽつんぽつんと音が響く。
傘を地面につく音、がさがさとカバンの中身が揺れる音、ダウンジャケットとセーターがすれる音、規則的に響く歩行の音。
今日の靴は最近気に入っている新しい靴。
踏むたびにコツコツと大人の音がする。
ちょっと前までひどい靴擦れに悩まされたけど、もうその心配はなくなった。
足になじんだ靴が、一体となって音を鳴らす。
自分の音に耳を傾けていると、「ああ今日も平和だなぁ」なんて暢気な感想が天に昇る。
こういうときは、やっぱり自分は子供だと、思ってしまうのだ。
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