28日目 『凪に溺れる』

彼曰く、この渇望の波に、心揺さぶられ、そのまま。


 ***


『凪に溺れる』青羽悠


この渇望は、私の生きる原動力だ。


何か、何かを求めている。

何かに追いつきたくて、憧れに手を伸ばしたくて、ずっとあがいている。

一人で、何も変わらない毎日に身をうずめ、そのままでは何も変わらないと知っていながら、一人では何も変わらないと絶望している。

勝手に望んで、勝手に失って、己の身勝手さを呪って今日も生きている。


鬱々とした日々に溺れるような、起こることすべてに抗いたくなる青春。

心情は激しく、波のように変わる。

一つの才能に出会った六人の人生は、一人の天才との出会いから色を取り戻したように変わり始める。

失意と希望が折り重なる若々しさに振り回されながら、それでも前へと進もうと生きる人々の生の瑞々しさ。

誰もが通る、若い血の流れる時代を、色あせたつまらない日常とともに思い出す。



読み終えた後、突き抜けた爽快感と無念さが去来する、不思議な物語でした。

表現の一つ一つが細やかで現実味を帯びている。

本来は存在しない才能だと知っているのに、まるでそこにいたのではないかと想像してしまう。

もしくはそこにいてほしいと願っているんです。

そう望んでいる自分がいることに気付いた瞬間、もうこの物語の虜になっているという事実を知る。

知るというより、次々と押し寄せる感情の波に囚われていると言っていいかもしれません。


ふいに流れてきたYouTubeの音楽から始まる新たな出会いの予感。

それは公式サイトの更新によって非情な現実を押し付けてくる。

そこから続く小さな港町の出来事は、どこかに熱を置き忘れたような哀愁があり、ハッとするような苦しさに身もだえしたくなる。


この小説『凪に溺れる』にはいろんな色があふれています。

どこか鬱屈とした日々の中に隠れた鮮やかな原色だけでなく、人同士の感情の中に渦巻く黒々とした想いや、弾けるような気付き、きらめくような錯覚。

様々に色づく波のように、思わず見とれてしまうような魅力が詰まっています。


職場としか接点のない私には、あからさまに足りていないもの。

生きる上での刺激であるはずの感情の欠落に見事にハマってくれました。

こういうのを求めていたんです、こういう感情の爆発を求めているんです。

きっと私が知るべきは、私は触れるべきは人間同士の熱。

やり取りから生まれる化学反応を目に焼き付けること。

それこそが私に安らぎをくれるものの一つなんだと再確認します。


何かを読むたびに私には何か足りないと思い、そのたびに「感情が足りてないんだよなぁ」と実感する。

いつになったら私の心に感情がともるのか。

ふと『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』を思い出します。

泣けたなぁ、自分にとっては何も関係ないことなのに。

この前、ネットの広告でBD予約を見かけて、ついクリックしていました。

購入までは至りませんでしたが、多分そのうち買うんでしょうね。

私のことですから、大体のことはわかります。


私も、感情の波に溺れたい。

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