17日目 『この世界の片隅に』
彼曰く、両手があればこの人の不安な手に寄り添えられるのに。
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『この世界の片隅に』
日本アカデミー賞受賞、アヌシー賞など多数受賞。
日本人女性の目線で見た戦時下の生活を描いた意欲作。
当時はクラウドファンディングで資金を得て制作されたことが話題になっていました。
柔らかな雰囲気で描かれ、花畑の中で絵を描いている主人公・すずの淡く微笑んだ振り向き顔が印象的なポスターでしたね。
戦争映画っていうのはどうにも苦手。
個人的、絶対的映画のせいです。
『火垂るの墓』
戦争というと清太と節子の姿が浮かんでばかりで、涙なしには見れないのです。
毎年夏になると母が見るのですが、そのたびに泣いてしまうのでもらい泣きするわけです。
「せっちゃんみると泣いちゃうから見れないよぉ」
それなのに見るのはなんなん、性なん?
本作も涙なしには見れないかと思ったけど、存外そうでもなかった。
多分耐性がついていたんでしょうね、時々くすりと笑えるシーンがあってほっとした。
そう、意外だなと思ったのが、戦争映画なのにちょっとほっこりすること。
すずのキャラクター性は好みではないけど、あの雰囲気がほかの人物たちの険を柔らかくしているのでしょう。
少女と大人の間のような、現実を見ているのか見ていないのか、時々イラっとするのは姑の径子と一緒。
娘を亡くして怒りをぶつけるのも径子、憲兵に怒られてこらえられず吹き出すのも径子、すずの天然発言に突っ込みつつフォローするのも径子。
私たち観客の心はは径子姉さんと一緒だと感じました。
本来はすずの信条に寄り添うところだと思いますが、意外なことに親近感がわいたのは径子姉さん。
夫と離縁し、実家に戻って気に入らない弟嫁との生活。
戦時下の食糧難で家族が生きるのも難しい時期に食い扶持を減らされるのはたまったものではないでしょう。
嫌味を言っても伝わらないし、直截的に言っても答えないすずの心胆の強さ。
それを前にしては、のんびり屋の多い家族の中でもしっかりしないと、と気丈に生きる径子姉さんの緊張もほぐれる。
わかるわかる、なんかすごく近しいものを感じる。
エンドクレジット、水玉モンペを着た彼女が妙に目を惹きました、不思議ですね。
こう見ると、すずのキャラクター性、つらいときにいてくれると元気が湧いてくるタイプです。
付き合いきれないと突き放したくなる時もあるけど、まじめで、ひたむきな生き方は見守っていたくなる優しさがある。
周作の気持ちがわかる気がします。
すずは工夫する頭のある賢い子。
少ない配給をうまくかさまししたり、おさがりの着物を繕ってモンペにしたり、嫁ぎ先のみんなの生活を支えている(おいしいかどうかは別として)。
実用的な部分で支えられている印象は正直ないですが、生活苦の中でも前向きに生きていく姿は精神的に支えてくれている。
お腹が膨れなくても、心は満たされる、というやつですね。
戦争経験のない私ですが、つらいときに前向きになれる力をくれる存在がどれだけ心強いことか。
戦争に負け、玉音放送に怒るすずは珍しく人間味があふれていました。
周作と二人で広島を訪れ、晴美とともに失った右手がないことを憂いて少し悲しむ。
そして広島の家族と再会し、無事を祝う。
負けることに悔しがる時間よりも、これから生きる時間の方が長いと知っているから、きっと前向きな言葉がでるんでしょうね。
泣いたらもったいない、塩分がねぇ
すずの言葉ではないですが、発展に向けて成長していく日本を陰から支える日本人女性たちの強さが垣間見えるセリフ。
今の平和があまねく続くことを祈りながら、ゆるやかに生きていきたいです。
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