14日目 劣等上等

彼曰く、劣等感を持つことは恥ずかしいことじゃない。


 ***


私にはできることが少ない。

普通の仕事、ありきたりの慰め、放っておいた作業の後始末。

頼りない自分よりも、頼れる他人に従った方がいい。


育て方の難しい花は、ときに何もしない方がいい。

”ただ見守るのみ”

どこかの土地神様が言っていた言葉で、自分のやり方を正当化。

今の私にできるのはこれくらいですから。


そうして後輩の世話から少し距離を取ること数日。

いい感じに後輩のぼろが出始めました。

やはりか、と思いつつまだ手を出さない。


相手との話し方を間違えたらしく、連絡を取ることが難しくなった。

どうすればいいか。


自分のスケジュールだと週末には上がってきていたはずなのに、まだ上がってこない。

仕事をしているのか、はたまたしていないのか。

その確認さえとることができない。

どうすればいいか。


日割り4の計算であればスケジュール通り。

そうして仕事の話をしていたのに、今のところの成果は日割り2。

どうしてこうなった。


どうして、どうして、どうして。

どうすれば、どうしたら。


疑問と戸惑い、薄い経験則で生まれる同じ考え。

考えは巡るどころか行ったり来たり。

迷いに迷って結局進めない、席に座ったまま動けない。



 さて、ここからどうするのかな


勤務中だというのに漫画を読んで、ワーキングチェアに思い切り持たれる。

ページを繰りながら横目で様子見。


動き出した後輩は、デスク代理のところに向かう。

おずおずと話し始め、話し方と質問の仕方がいまいちな後輩の口はたどたどしい。

スケジュールについて、今後の方針について、これからどうすればいいかについて。

ひとまず未来についてをどうするかを考えているらしい。

でもやはり後輩の質問は要領を得ない。

なんとか教えながら言おうとしているようだけど、うまく伝わっている気がしないらしい。

結局一方的にデスク代理の話が進む時間が増え、最後になると後輩の言葉は薄くなった。

一通りの話が終わり、相談が終わる。

「ありがとうございます、今後はちゃんと気付けるようにします」

いつもの最後の言葉で締める。


もちろんこれは後輩の言葉、後輩なりの頑張りがこもっているのかもしれない。

一見すると前向きな言葉だけど、実際には自分の首を絞めているだけ。

劣等感を見せないように、気張っているのかもしれない。

でもそのあとに自分がするべきことをわかっているのかな。


後輩の難点はわかっている、劣等感を持ちたくないんだ。

自分の中のできない部分を見せたくないだけ。

それだけで世の中はやっていけないぞ。

世界は君に対して甘くないから。


果たして気づくことができるのか。

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