18日目 カレー

彼曰く、牛肉は固くなっちまうから難しいんだ。


 ***


先輩とご飯に行ってきた。

久しぶりに一緒に食べる。

最近は私が平日の自炊生活に戻りつつあったのもあって、一緒に食べる機会があまりない。

というかこの先輩とはもともと一緒にご飯を食べる機会が少なかった。


私と先輩は相性が悪い。

悪いとまではいかないかもしれないけど、お世辞にもいいとは言えない。

性格も真逆だし、考え方も全然違う。

根本で根はまじめなところや、仕事一辺倒じゃないところは似ているけれど、生きてきた土壌が違うから踏む工程がだいぶ違う。

向こうは何かにつけて下ネタの話題に持っていきたがるけど、私はそんなに下ネタを口にしない。

開放的か、内向的か。

大っぴらなのか、つつましいのか。

その程度の違いだと考えると似た者同士なのかも。

でもきっと、だからこそお互いの相性があまりよくないと、直感で分かっている気がする。

向こうがどう思っているか、本心のところはわからないけど、少なくとも私はあまり相性がいいとは思っていない。


一度仕事を一緒にしたとき、先輩が鬼のような忙しさで、私はそのあたりの補佐をしていたのだけど、機嫌の悪いタイミングだったらしく、

「うるさい、ぶっ飛ばすぞ」

と言われたことがある。

「あ、いまはあまり刺激しない方がよかったか」

私も当時はまだド新人、急な部署異動で右も左もわからず、まして新しい同僚の趣味嗜好性格思考回路がわかるはずもなく。

すぐに謝ってちょっとシュンとした覚えがある。

あとで分かったことだけど、先輩も当時はあまりの仕事量にイラついていて余裕がなかったらしい。

心に余裕がないとやっぱり人の性格は変わってしまうんだな。

「仕事って大変だ」

改めてそう感じたいい機会だった。


久しぶりに行きつけのカレー屋に。

ここのカレー屋は本格テイスト風家庭の味、という形容詞がふさわしいと思う。

素材の味が生きていて、かつスパイスがしっかりと彩を添えている。

カレー全体からその風味が漂ってくるから、本格かつ家庭。

会社の人間もよく通う店の一つ。

この前初めて食べたビーフカレーがおいしかったな。

「ビーフカレーひとつください」

「ビーフカレー、こっちは大盛で」

先輩もビーフカレーだった、意外に舌の好みはあうのかもしれない。


牛肉は調理が難しいことを良く知っている、ただ単に焼き肉屋でバイトしていたわけじゃない。

しっかり火を入れないと生臭くなってしまうが、煮込みすぎるとかたくなって食べづらい。

そこがちゃんとわかっているのがこのカレー。

口の中でほろりと崩れ、スパイスと一緒になって胃の中を熱くする。

仕事や将来の話に花を咲かせ、今まで話したことのないことも話し合った。


今までの固い感じがどことなく緩んだ気がする、大きな進歩。

人間関係も、扱いが難しいんだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る