28日目 眼鏡~その5~
彼曰く、迷うことなんてなかったんだ。
***
眼鏡を失くして5日が経った。
いつもと変わらない朝が今日もやってくる。
そろそろ眼鏡の方から私が恋しくなってやってくるんじゃないかと思っていたけど、相変わらず戻ってくる気配はない。
愛人である眼鏡ケース氏のもとにも現れていないという。
一体全体どこに行ったというのか。
コンタクトと予備の眼鏡でしのいで早5日目。
いいかげんこの生活にも慣れてくるかと思っていたけれど、思わぬ事態がまた私を襲う。
コンタクトが限界を迎えた。
実際にはコンタクトを装着する私の眼が限界を迎えた。
コンタクトは私の角膜に直接ダメージを与えてくるから、ドライアイの私には非常に手痛い仕置きなのだ。
まさに言葉通り、痛々しい顔になって、手に取るものも震えて仕事にならない。
3秒に1回は目薬を差す羽目になる。
常に涙流して悲劇のヒロイン演じてないといけないのは、平日の一般社会人としてどうなのだろうか。
自分の世間体が心配になってくる。
予備の眼鏡、と言いつつ、ちょっとフレーム太め、顔の印象が3段買い増しくらいで濃くしてくる大学時代の眼鏡をかけて会社に来ている時点で、そんなものはとうに捨てているが、それでも世間体は気になってしまう。
人間って、人間社会で生きるって難しいわ。
プライベート用の眼鏡で出社するなんて、化粧パックしたまま出社するようなものよ。
肌整える前に身だしなみを整えなさいよ。
何が大事かって、人は常に見られていると思いなさいってこと。
ささっと化粧を5分くらいで済ませながらお母さんがよく言ってた。
ナチュラルメイクしか勝たんのよ。
でもナチュラルどころかリラックス姿を見せるわけにはいかない。
見られているなら見られているなりに、自分の身なりには気を遣わなければ。
服装、髪型、爪、歯、毛、その他もろもろ。
このその他の中には、もちろん眼鏡も含まれる。
今やマスクでさえオシャレ文化に分類されている時代。
それより前から常用している人の多い眼鏡をファッションと呼ばずして何と呼ぶのか。
志村新八君の眼鏡だけじゃないんだよ、流行のメインウェーブは。
皆の眼鏡が常に主人公なんだよ。
眼鏡を常用している人にとってはまさに体の一部、なんなら服よりも大切な物。
常に触るスマホと同じくらい大切なのです。
失くしてしまうとつらい、スマホをなくすようなものだから。
実際に私が今回失くした眼鏡は大体3万円くらいのフレーム。
ここに度入りのグラスをはめないといけないから+2万。
一般的に知られている大手ではなく、最近話題のお店で買っているものだから結構いい値段する。
自分の体を選ぶ場所のようなものだから妥協はしない。
こういうところにはお金をかけてもいい。
それに、そのお店の眼鏡をかけているのは、ある意味ステータスだと思う。
眼鏡を多くの人が満足してかけられるようにしてくれているから好き。
最近最寄り駅にできたらしい。
「・・・買うか」
それしかない。てがかりが全くない今、次のステップを踏まなければ。
自分の体の一部で、好みのデザインの眼鏡を取り扱っていて、人に見られて自慢できるかもしれない。
最後のはただの願望みたいだけど、私の願望はそれではない。
ずっと言ってることだ。
「(新し)いい眼鏡が欲しいなぁ」
迷う必要はなかった、新しいのを買いに行けばいいのだ。
ということで、祝日の明日に行ってくるわよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます