27日目 仕事

彼曰く、私今、仕事してるって感じがします!


 ***


昨日の続き。

爽やかにやってきた2人のインターンと私たちの話。


最初の顔合わせの日。

「どんな子が来るのかしら」ともじもじしながら、

ひとまずいつものように仕事を始めました。

班のメンバーもどこか落ち着かない様子、そりゃそうでしょうね。

現役の学生やってる子たちが品定めにやってくるわけですから。


「へぇ~この会社ってこんなことしてるんだ~」

「え、社食ないの?福利厚生わるくな~い?」

「なんだか大声で話してる人が多いですね、オープンなのはいいけどうるさいな」


「「「なんか、思ってたより普通・・・」」」


そんなふうに思われてしまったらどうしよう。

社会人として恥ずかしい。

そんな姿見せられない、あられもない姿を見られて幻滅されたくない。


会ってもいない若い子たちにびくびく緊張している。

いい大人が情けないですね。


でもそんな態度はおくびにも出せません。

きっとインターン生の方が緊張しているに決まっています。

普段関わらない大人、知らない人ばかりの初めて入る環境。

向こうから見れば、知りたい仕事をしているだけで”プロ”ですから。

狼狽えていてはいけませんよ、ええ、負けていられませんとも。

このプレッシャー、重圧、軽くあしらってやりましょう。


そんな心づもりを一人静かに抱きながら、挨拶。


「「よろしくお願いします!!」」


ド頭からノックアウト!

元気!爽やか!フレッシュネス!

溢れる活力の権化が塊になってぶつかってきました。

もちろん態度には出さないですけど、心のHPはもう赤ゲージ。

あしらうことなんてできんかったんや・・・。


こんな調子ではいけません、期間は2週間あるんですから。

向こうの意志を尊重して、ちゃんと向き合わないと。

俄然気が引き締まります。

新人が来る前のいい練習です。

そのつもりで爽やか元気な2人と働きました。


1人は専門学校の女の子。

とっても元気で、声も大きく、パワフルな感じ。

積極的に質問してくるので、この業界に入りたいという欲の圧が凄いです。

押しつぶされるんじゃないかと思うくらい。

話を聞くと今まで閉じられた世界に居たんだそうで、

いわゆる箱入り娘のような生活だったんだとか。

何かの巫女になるための養成所のような場所にいて、

そこを辞めて専門学校に行っている。

きっと今がとても楽しいんだろうな。


もう一人は普通の4年制大学の女の子。

4月からは4年生で、いよいよ就活が始まるという年。

将来的には企画プロデューサーになりたいらしく、

映画やゲームが好きなので、そこも含めてエンタメ業界を志望しているそう。

穏やかそうな顔立ちで、真面目で一生懸命な印象。

業界のことは知らないことばかりで不安に思っていたけど、

「そんなのみんな一緒だよ、私も知らなかったし」と言ったら安心してた。

私にもあったな~、そんな時分が。

4年前、同じように就活していた頃の自分を思い出しました。


結局実際の作業がどういうことかを見せ、やってもらうくらいしかできません。

突発的なイベントに時間を割いてしまえるほど、

考える時間も経験もなかったので仕方ないです。

素材の数え方、次の行程への準備、打ち合わせの用意と片付け、

デスクワークや資料作りの手伝い。

業界のみのものばかりというわけではありません。

彼女たちの役に立つことを祈りつつ、一般的に有用そうなことも教えました。


ただ実務をやるだけではもったいないので、時間を取って質問タイムも設けました。

というのも、2人からこんな話が。

「もっと色々聞きたいんですけど、どのタイミングで聞けばいいか・・・」

向こうは聞きたい、でもこっちは普通の仕事もしている。

立場的に下の彼女たちが気軽に聞くことなんて、無理な話です。

私たち、特に席が隣だった私ともう1人はそれほど忙しくない時期なので、

質問してもらって全然かまわなかったんですが、

仕事を中断させる申し訳なさが聞く勇気に劣ってしまったようで。

なのでこちらからそのための場を設けました。


あの時間は有意義になったと思います。

普段の仕事の流れ、どういう1日を過ごしているのか。

仕事をしていて楽しかったこと、つらかったことは?

一番嫌いな仕事は何か、苦手な作業が始まったときどう対処しているか。

どんな会社か、イベントごとはあるのか、所属部署の雰囲気はどうか。

実務+αの質問の他、どんな人が向いているかも聞かれました。

さらには休みの日やプライベートは何をしているのかも。

掘ればこぼれるほどの質問の数。

やっぱりこういう時間が必要みたいですね。

2週間の中で一番効果があったと、個人的に思います。


インターン最後の日、2人から手紙をもらいました。

部長、ラインプロデューサー、インターン担当の先輩、

それと席が隣でよく対応していた私と同僚の2人。


「本当によくしてくださってありがとうございました

 知らないことばかりでたくさん聞いてしまいましたが、

 丁寧にしっかり教えてくれて感謝ばかりです

 忙しくても和やかに働いている姿が素敵でした

 まだこれからどうなるかわかりませんが、

 いつかまた会えるように頑張ります!」


もっと色々な言葉で書いてありましたが、とにかく感謝の念が伝わってきました。

素直に嬉しかったです。

手紙っていいですね、心が温かくなります。

私たちにもいい経験になりました。


一緒に外回りに行った日。

「仕事してるって感じがして、なんていうか嬉しいです!」

目を輝かせるようにして出た言葉。

若々しく、新鮮な感情でした。

なんだかとても元気づけられたようで、すごく嬉しかったです。


この先一緒に働けると嬉しいですが、べつに同じ場所じゃなくてもいいんです。

憧れで終わらず、目指したいところに向かうため、

自分たちの生活や性格、肌に合った場所で、

何かに打ち込む姿があってくれれば。

そうあることを日記の中からも祈っていますよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る