30日目 雰囲気
彼曰く、もう無理!もう嫌だ!もう限界だよ、クソ!
***
人の運命というものは偏りがある。
スプーン一杯の砂糖を掬うのが、いつも一定量じゃないのと同じ。
カップごとに同じ甘さのコーヒーが出るのはオート化された世界だけ。
この世界はオートマじゃない。
神様とかいう偉い人の、その日の気分と気まぐれによって成り立っている。
技術進歩著しい現代において最も古いマニュアル事象だ。
甘いコーヒーで満たされたカップを引き当てた人は幸運の人。
歩くたびにお金が降ってきて、行く先々で人に好かれる。
仕事の調子も順調、友人関係も良好で、能力の伸びが目に見える形で表れる。
そのたびに褒められたり、尊敬を集めたりするから、
自然といい巡り合わせと縁があり、さらに新しいことに挑戦しようとする。
前向きだから幸福に恵まれている。
幸運は常に前を向く人の手助けをするのだ。
自分の成長を肌で感じることができるから心にも余裕が出る。
ゆったりと優雅に、午後のコーヒーブレイクに浸るひとときの幸せも享受できる。
砂糖の少ない、苦いコーヒーのカップを持った人は運のない人。
不運と言うと、それはもう残念な感じに聞こえるから、あえて抑えておく。
運のない人はやっていることが正しいことが多い。
能力値にも問題はないし、人間関係の作り方が上手い人だっている。
ただ一点、運がないことを除けば、一般以上の実務をこなせるはずなのだ。
自分なりに考えて、自分の出せるベストの回答を提出し、
いろんなところに”OK”を貰うのに、最後の最後、
絶対的に必要な人のところまできて”NO”に裏返ってしまう。
各所確認に駆けずり回り、いろんな失敗を重ねながらも導き出した答え。
それを呆気なく突き放され、破り捨てられ、「別のにして」と言われる始末。
苦々しい思いでいっぱいだろう。
ブラックコーヒーを飲んだ時のように。
人好きするタイプで、段取りの組み方も理想的な形なのに、
他人の予想だにしない勝手な行動でプランが無茶苦茶にされる。
傍から見ていてつらいものがある。
本人が頭を抱えて、発狂寸前のような声で言い散らすものだから、
なんとなくこちらも悪い思考になってしまう。
もしかしたら自分も運のない人間なのかもしれない・・・。
職場において雰囲気というのは大事なもの。
場の空気は人の心に作用し、働く姿勢や気持ちの維持にとても重要だ。
雰囲気づくりのしっかりしている職場は人がやめにくく、
将来への展望に向けてみんなで一丸となってやろうという気概がある。
それはきっと、いい組織作りのために必要だし、なにより楽しく働ける。
もちろん、その人のことを「運がないなぁ」というだけではいけない。
同調してばかりもいけないけれど、
怒りを諭し、方向転換に乗り出すきっかけを与える仲間がいなければ。
みんなが同じ方向を向くべきでも、負の側面を見つめるばかりはいけない。
影ではなく、光照らす方向へ舵を切らないと、
幸運の女神は微笑んではくれないだろう。
大変な場所を任されて、切れ散らかしている人を見かけて、そう思った1日。
今日も私は甘いコーヒーを飲んでいた、3杯くらい。
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