24日目 子供

彼曰く、ぼくのほうがつよいんだから!!


 ***


ぼくは子どもだ。

つよくないし、知っていることも多くない。

友だちは多いほうだと思うけど、みんないろいろ。

ぼくよりつよい子もいるし、よわい子もいる。

あたまがいい子もいるし、バカな子もいる。

走るのがはやい子もいるし、ちょっと走っただけでハァハァいう子もいる。

けんかをしたがる子もいるし、はなすのがうまい子もいる。


みんな同じ子どもだけど、ちょっとずつちがっている。

自分と同じ子はいないんだ。

そう言われたとき、ぼくはうれしくなって、

そのあとなんでか、むねがキュッとした。

ころんでもいないし、だれかになぐられたわけでもないのに。

ぼくは分からなかった。


あたまのいい子が言うには、むねは”心”っていうのがあるところらしい。

ぼくたちにはみんな”心”がやどっていて、

いろんな心がぼくたちのちがいを生み出しているんだって。

だから、ぼくとみんなとちがうのは当たり前のことで、

生まれたときから決まっているようなものなんだって。

みんなでわっかになって話していたとき、

そう言われてモヤッとしたものが晴れたような気分になったけど、

やっぱり心はくるしいままだった。


おかあさんと買い物に行ったとき、思い切ってきいてみた。

「ぼくはなんでみんなとちがうんだろう」

こまったときに安心させてくれるのと同じ動きで、

おかあさんはぼくのあたまをなでてくれた。

なにも不自由はしていない。

むずかしくてこまっても、いろんな友だちが助けてくれる。

おとうさんも、おかあさんだって、背中を支えてくれている。

なのに不安で、つらくて、そう思ってしまうことが、とてもくやしかった。

包むようなやさしい力でぼくのあたまを何度もなでながら、

おかあさんは答えてくれた。

「ちがっていていいのよ、この世にあなたさえいてくれれば、それで」

いつもやさしいおかあさん。

今日はいつもよりもやさしく、あたたかく聞こえた。


うれしかったけど、くやしさは無くなった。

でも、かけだしたくなった。

スーパーの近くで他の人に見られてはずかしかったからじゃない。

いつまでもなでられているのがイヤだったからじゃない。

なにか、ぼくができるっていうことを見せたかったからだ。


ぼくは子どもで、おかあさんより小さい。

力もないし、知っていることも少ない。

できることは多くない。

でも、こんなぼくでもおかあさんの力になれる。

おかあさんを守ることができるって。

盾になることくらいできるって。

証明したかったんだと思う。


だからあのとき、おかあさんまで届かせない覚悟で、

後ろから走ってくる車の前に出たんだ。



 +++



ぼくはまだまだよわい。

おかあさんにけがはなかったけど、とてもおこられてしまった。

車はゆっくり走っていたからぶつかることはなかったし、

そもそも車が停まる白い線がすぐそばにあったから、

ぼくたちにぶつかってくる心配はなかった。

ぼくは車に勝つことはできなかった。

でも、もしかしたら、ぼくの知らないものがおそってくるかもしれない。

そのときおかあさんを守るのは、ぼくだ。

いまはまだ弱いかもしれないけど、大事なものを守れるようになるんだ。


ぼくはまだまだ強くなる。


 ***


この前車を運転してるときに、なかなかどいてくれない男の子がいました。

きっとあの子はおかあさんを守りたかったんだろうな~。

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