3日目 豆まき
彼曰く、歳の数だけ食べるのが日本流。
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豆まきの季節。
幼稚園の頃、豆まきの季節の思い出はありません。
きっと怖いモノから逃れようとする生存本能が働いて、
幼いころのイヤーな記憶をほじくり返さないようにしているのでしょう。
絶対死守領域が、私の記憶野に存在しているのです。
海馬をいくら働かせたところで、思い出すことはないと思います。
覚えていることと言ったらひたすらに豆を食らっていたこと。
私にとって、豆まきはただ腹を満たすための行事でした。
私は食べるのが好きです。
それは今に始まった話ではなく、家族で暮らしているときからです。
家族は5人。
3つずつ年齢の違う私たち兄弟にとって、
囲む食卓はもはや戦場でした。
大家族あるあるかと思いますが、
兄妹や家族そのものの人数が多いと、テーブルには大皿が並ぶのです。
唐揚げ、ホイコーロー、チンジャオロースー、餃子、お好み焼き、ピザ。
子供の好きな揚げ物やハイカロリーフードが山のように積まれ、
各自の取り皿が配布されれば戦闘開始。
ひとたびゴングが鳴れば、その場の全員が目の前の宝に血眼になり、
貪るように食い荒らすのが常でしょう。
巧みな箸使いで相手を翻弄し、体勢を崩したタイミングで狙いをすます。
そして流れるような箸捌きで食べたいものをつかみ、
自分の取り皿に持っていくのです。
その取り分で何度もめたことか。
これならいっそ自分用だけあればいいのに!
・・・まあおかわり絶対するんだけど。
そんなふうに自分で自分のペースに驚きながらも、
ときには激しく、ときには状況を静観して、
寝静まったところを奇襲して食らいつくしたりもする。
私たち兄弟にとっては、何かを食べるという行為は、
人間としての理性を外してもいい本能的な行動、なのだと思います。
おかげでいつでも何でも食べられる体になってしまったので、
近いうちに親の影響でお腹が出てくるんじゃないかと危惧しています。
嫌だなぁと心配になりますが、ぼりぼりと豆を食べる手は止まりません。
歳の数だけでは足りないのもそうですが、なぜかと言えばそう。
大豆大好きなんですよ!
納豆大好きな人間なので、同系統の食べ物には敬意を称して挨拶せねば。
そんな気持ちで撒いた分を回収して、ツマミ感覚で食べていきます。
歳の数なんてとうに過ぎて、余った分もすべて食べきってしまう。
気づけば兄妹の撒いた分も食べてしまう。
そんなことばかりしていたから兄妹仲がときどき気まずくなったんでしょうか?
でも、だからこそ言うべきでしょう。
(家族という存在は大切だけど、家族に潜むよくないもの、すなわち)鬼はそと!
(自分自身、そして大切だと思う人たちに届けたい願い、すなわち)福はうち!
今年の豆まきは静かなもの。
たまには静寂の中、心に潜む鬼と向き合ってみるのもいいのではないでしょうか。
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