8日目 ウエハース
彼曰く、軽いものはいつまでも。
***
私の会社には不思議な現象があります。
共有のものが置いてある、みんなのなんでも置き場があります。
自分の部署がある部屋に入ってすぐのところ。
ガムテープ、輸送用の発注伝票、ペン、裏紙などなど。
朝来たときに届いていた荷物を仕分けしたり、
集荷時間ぎりぎりで準備をしたりする場所です。
暇つぶし用の漫画なんかもあります。
これはある社員さんの趣味らしいですが。
そこにときどきお届け物が。
箱買いされたウエハース。
だいたいが特典でトレーディングカードが入っていたり、
記念アイテムがついている、子供が好きそうな駄菓子です。
ただし付属品は開封されて抜き取り済。
よってただのウエハースが置かれています。
社員さんで好んで買う人がいるらしく、お裾分けのようです。
顔も分からない誰かからの「いつもお疲れ様」の贈り物。
見えない言葉の温かさを感じます。
ウエハースって、悪魔的な食べ物だと思うのです。
軽すぎるから。
口に入れるとサクッとして楽しい。
しかし噛むと早くなくなるし、そのくせお腹にたまらないから、
どんどんどんどん食べ進めてしまいます。
一つ食べては二つ目に、二つ食べれば三つ目に。
伸びる手は止まることなく、置かれたお菓子を消費していきます。
まるで回転寿司の大食いのように、あるものがすぐに消えていく現象。
もはや恐怖映像です。
でも大丈夫、軽いから。
食べ過ぎても太る心配はないし、何とかなるという根拠のない自信。
根拠として挙げるとしたら、軽いから。
ただそれだけ。
いくら食べても大丈夫。
カルシウムあるし。
適当な理由と思いきや、意外にまじめな顔でひたすら食べ進めていました。
気づけば10個目。
箱の場合はダース扱いなので、残りは2つ。
ちょっと食べすぎましたね。
いくら何でも一人でこの量はあまりにも自己中。
でも仕方ありません、軽いんですから。
反省も軽くなってしまいます。
一応反省はしているつもりですけどね。
「とりあえず帰ろう」
軽い感じで、空になった箱をごみ箱に入れながら、
口の中のウエハースを飲み込みました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます