29日目 あご
彼曰く、これはきっと一生もの。
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最近顎が痛いです。
”顎”と書いて”あご”と読みます。
人間に口は一つしかないのに、なんで二つも口がついてるのかしら。
調べてみると下の”亏”は漢詩で使うような感嘆を表す言葉。
人が口を開けて感嘆している様子を表すとするならば、
二つの口は鼻の孔ということにはならないでしょうか。
そうなると”口”だと思っていた部分が「穴」の意味になってしまいますし、
なんなら”頁”はもみあげっぽく見えなくもないです。
だんだんと漢字の元の意味が霧散してしまっていますね。
漢字はほんとにおもしろいです。
でも顎が痛いのは面白くないです。
日本人に生まれたから、漢字は一生つきまとうもの。
そもそも名前に漢字を使っているので、使わなくなることは一生ありません。
顎も一生使うもの。
人間がものを食べる行為をそぎ落とさない限り、
単なる上下運動をし続けることが運命づけられているのです。
困ったことに、漢字は使っても減りませんし、疲れませんが、
顎は減りはせずとも疲れるもの。
物を食べる以外にも、話す、我慢する、力を入れる、笑う、
ただの表情芝居でも顎を大きく開けることだってあります。
使おうと思えばいくらでも使えますが、
使いすぎればいつかはバグが発生するもの。
持ち主である人間に悪い影響しか出ません。
使えば使うほど悪くなる。
なんてもどかしい原理なのか。
漢字を書き直すことができるように、
自分の顎を作り直すことができればいいのにな。
遠い未来、電脳化が進歩して体をいくらでも量産できるようになれば、
ロボットに乗ることを夢見る少年のような願いも叶いそう。
そんな未来を夢見る思いも、言ってしまえば一生もの。
幸い、願いは書き換えることができます。
自分の理想には遠くても、近い未来は叶うかもしれない。
一生とは言いつつまだまだ長い人生です。
ただ顎が痛いだけで絶望するにはまだ早い。
五体があるだけいいじゃない。
生きているだけで万々歳ですから。
一生かけて叶わないものを手に入れられないことがあるなら、
一生かけて一緒にいてくれるものを守った方が心にもいいです。
自分の体は一生もの。
大事に大事にしていきましょう。
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