29日目 あご

彼曰く、これはきっと一生もの。


 ***


最近顎が痛いです。

”顎”と書いて”あご”と読みます。


人間に口は一つしかないのに、なんで二つも口がついてるのかしら。

調べてみると下の”亏”は漢詩で使うような感嘆を表す言葉。

人が口を開けて感嘆している様子を表すとするならば、

二つの口は鼻の孔ということにはならないでしょうか。

そうなると”口”だと思っていた部分が「穴」の意味になってしまいますし、

なんなら”頁”はもみあげっぽく見えなくもないです。

だんだんと漢字の元の意味が霧散してしまっていますね。

漢字はほんとにおもしろいです。


でも顎が痛いのは面白くないです。


日本人に生まれたから、漢字は一生つきまとうもの。

そもそも名前に漢字を使っているので、使わなくなることは一生ありません。


顎も一生使うもの。

人間がものを食べる行為をそぎ落とさない限り、

単なる上下運動をし続けることが運命づけられているのです。


困ったことに、漢字は使っても減りませんし、疲れませんが、

顎は減りはせずとも疲れるもの。


物を食べる以外にも、話す、我慢する、力を入れる、笑う、

ただの表情芝居でも顎を大きく開けることだってあります。


使おうと思えばいくらでも使えますが、

使いすぎればいつかはバグが発生するもの。


持ち主である人間に悪い影響しか出ません。

使えば使うほど悪くなる。

なんてもどかしい原理なのか。


漢字を書き直すことができるように、

自分の顎を作り直すことができればいいのにな。


遠い未来、電脳化が進歩して体をいくらでも量産できるようになれば、

ロボットに乗ることを夢見る少年のような願いも叶いそう。


そんな未来を夢見る思いも、言ってしまえば一生もの。

幸い、願いは書き換えることができます。

自分の理想には遠くても、近い未来は叶うかもしれない。


一生とは言いつつまだまだ長い人生です。

ただ顎が痛いだけで絶望するにはまだ早い。

五体があるだけいいじゃない。

生きているだけで万々歳ですから。


一生かけて叶わないものを手に入れられないことがあるなら、

一生かけて一緒にいてくれるものを守った方が心にもいいです。

自分の体は一生もの。


大事に大事にしていきましょう。

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