12日目 安心

彼曰く、その存在はどこまでも儚く、愛おしい。


漫画は好きだ。

文字があり、絵があり、何より物語がある。

自分のものではないのに、まるで自分が感じているかのような。

生々しいやり取りや情景、想像の産物でさえ現実と錯覚させる。

他人の人生を自分の人生と誤認させ、作った世界に漬からせる。

それはもう、どっぷりと、自分のものになるくらいに。

文学とはまた異なる、1つの作品の完成形。

小説、映画、運動、恋愛、様々な娯楽のある現代で、

漫画がその1つと言えるのは、やっぱり漫画が面白いからだと思う。


人に何かを伝えるとき、必要なことは心情そのものと理解を求めること。

相手を気遣っての言葉であること、

これからの展望を願ってのこと、

言葉の壁を越えられるように、

理想の違いを励ましあえるように、

相手に何かを伝えることの難しさを知っているからこそ、

あれこれ考えて悩みぬく。

「ごめん、素直な気持ちを言っておいた方が楽になるかと思って・・・」

「今のうちだから、違う国に来て違う世界を見るなんて」

「君にはまだ難しいかもしれないけど、君の意思は誰もが尊重しているよ」

「お前はお前の目指すべき場所に向かって、全力で走ればいいんだよ!」

表情、目線、口の形、紅潮具合、体の動き。

輪郭、纏うオーラ、文字のフォント、大きさ、コマの使い方。

絞り出すようにして写し出された言葉たちが、

その人の言葉であることを視覚的に演出され、

まるで生まれ出た新しい命のように見えてくる。


物語による説得力。キャラクターの歴史。

噛み砕いた言葉とあえてぼかした言葉。

心の揺れに加えて描かれた選択肢と、

それに対してどういうアクションを見せるべきか。

大切な2人の命を前に、どちらを救うべきかを迫られる気持ち。

これまで愛してきた人から苦渋の決断を打ち明けられたとき。

ずっと支えてきた人が重い病気にかかり、死の間際に立たされている。

たとえ同じ状況になったことがなくても、

過去に似たような経験をしていたとしても、

それは新たな人生として目に入り、違う世界に紛れ込ませる。

まさに疑似体験。

そのときに果たしてどう選択するか。

その世界の人々はどういう選択をし、自分だったどう動くのか。

漫画は作品であると同時に、指南書でもあるといえる。


自分にとってあるものがどういう存在か。

人は物を定義するとき、自分の尺度で推し量る。

他人、家族、友人、取引相手、ライブで席が隣だった人、

職場の違う部署の先輩後輩、親の代わり、大切な存在。

考え方は様々だが、定義づけをすることで人は安心しようとしている思う。

自分にとって、それが安心できるものなのか。

生き物は古代から、自分に害なすものは避け、

自分に利をもたらすものは受け入れ、利用してきた。

生きる上で何を削ぎ落し、何を側に付けるか。

人は、ただ安心したいのだ。

一緒にいるとホッとする。

見ていると心が安らぐ。

読んでいると落ち着いてくる。

聞いているとハッピーな気持ちで満たされる。

なんとなく、穏やかな気持ちになる。

理由なんてなんでもいい。

人でなくたって、動物でも植物でも、物でもいい。

色んな立場の存在が、それぞれ自分にとってどんなものなのか。

安心できるものなのか。

それって一体なんだろうか。


今日読んだ漫画はラブコメ。

また紹介する機会もあるだろう。

私は漫画が好きだ。

違う世界を夢想するのは楽しいし面白い。

自分も似たような気持ちになったときのことを想像して、

キャラと一緒に嘆くし、一方でこうすればよかったんだと、

他人事のように自分を見つめ直すこともできる。

ときに励まし、ときに導いてくれる。

これだと先生か師匠のようで、安心とは違うかもしれないけれど、

もし漫画がない世界だったら、もしかしたら心が折れていたかもしれない。

くず折れて、元に戻ることはできなかったかもしれない。

でも私は今生きている。

心をもって、生きている。

安らかな心にしてくれると考えれば、安心できる存在と言えるかな。

描く世界は儚いものだとしても、私の糧になってくれる。

どれも大切で、愛しく思える存在だ。

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