13日目 渇き

彼曰く、声に騙されてはいけないですね。


夏、久しぶりの雨が降りました。

ついこないだまで梅雨が続いていて、

突然天気がガラッと顔色を変えて暑くなったのもあり、

恵みの雨となるかと思っていたのですが、

逆に湿気を呼び込むだけ呼び込んでおいて、

後は人間に放置プレイを強いてきただけでした。

世界はサウナじゃないんですよ。

会社に来るまでに整いそうなんていう先輩がいましたけど、

着替えられないならその汗も気持ち悪いだけですよ。

まあ気持ちはわかりますけど、

せめて水風呂くらい浴びたいですね。

プールに行けるようになりたいなぁ。

豊島園はプールだけは残っていると聞いたので、

お風呂代わりに行きたいです。


しかし肌を水にさらすだけでは渇きは癒せません。

何より水分補給が第一。

水でもスポドリでも何でもいいから、

砂漠化した口にオアシスが欲しいです。

最近はお茶にはまっていますが、

いつもの後輩君はちょっと凝っています。

引っ越したばかりの家に早速届いたそうですが・・・。


ウォーターサーバー。


いやいや、凝りすぎでしょう。

なんで水分補充庫を購入してしまったのか。

業者や会社じゃないんだから。

確かに便利かもしれないけれど、

飲むのが簡単になるわけじゃないからね。

しかもあれって案外大きい。

試しにどんな感じか聞いてみました。

「めっちゃ邪魔っすね」

なぜ買ったのか。

「電話してきたお姉さんの声がかわいかったんすよ」

のせられてるだけじゃないの。

顔も見ていないのに声だけで買いかぶられるとは。

声優ファンでもないのに、声に騙されるとはね。

電話で聞いたときはわりとスリムな体をしているらしいのですが、

家に招いてみると意外に場所を取るそうで。

家での動線にたたずんでいるらしいです。

確かにそれはただの邪魔者。

ダルマとか招き猫とかなら安易にどかせるけど、

ウォーターサーバーかぁ。

電気とか場所とかあるだろうから難しいですね。


そもそも買い付けてしまった理由の一つには、

彼女と別れたばかりというのもあるはず・

弱った男の心に女性の優しい声音が響いたのでしょう。

寂れて渇いた心にしみる、潤いに満ちた水の音。

無意識のうちに慰みを渇望していたのでしょう。

私がいつもよりお茶をたくさん飲んでいて、

ついにはAmazonで25本セットの麦茶500mlを買ってしまったように、

後輩君の渇望を満たしてくれる新鮮な水を。

そのお姉さんは単純に営業をしていただけでしょうけれど、

状況だけ見ればタイミングが良すぎです。

社会人1年目に付け込まれている・・・。

そういうところから一人暮らしの地獄が始まるということです。


負けるな後輩、これからがまだある。

君の未来は潤いに満ちているよ。

たとえウォーターサーバーがなくっても。

さっさと邪魔者は売り飛ばして、

快適なセカンド新生活を始めてほしいです。

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