10日目 梨

彼曰く、熟しすぎるのも考え物。


叔母に梨を貰った。

西洋なしではなく、和梨。

まだ秋にもなっていないのに、

こんなに早く秋を感じることになるなんて思っていなかった。

しかも一緒に貰ったのはスイカ。

小ぶりだけど、和梨よりは大きい。

1つのスイカの大きさは、

2つある和梨を合わせても釣り合わないほどある。

紙袋の中でひしめき合っているそれらを見ると、

まだ夏の方が勢いがあるな、なんて考えてしまう。


桃栗三年柿八年。

そんな諺がある。

家の裏で取れた柿を剥きながら、

母がよく言っていた。

種から育てた果樹が成長するには時間がかかるという意味。

転じて、何事も成就するにはそれ相応の時間がかかることを意味する。

梨が旬になるにはもう少し時間がかかるはず。

きっと早くに撮られてしまった悲しい子なんだろうな。

紙袋から出さないままに予想を立てながら歩いていく。

夏だというのに、涼し気な風が頬を通り過ぎていくのを感じながら、

家に向かって歩いていた。


それはそうと、梨は結構大きい。

スイカと比べればそれは小さいのだけど、

同じく秋の果物として知られている、

柿やブドウ、イチジクよりは大振りに育つ。

成人男性のこぶし大くらい。

リンゴと同じサイズで、

リンゴよりも水分に富んでおり、

栄養価は低いが甘さを感じやすい。

人を選ぶ果物ではあるけれど、

シャリシャリとした独特な食感と、

みずみずしい果汁を楽しみたい人にとってはうってつけの果物。

私の好きな果物の1つ。

3個あれば3個とも食べてしまうくらいには。

気づけばナイフが皮と実の間を滑り、

まな板の上には皮と芯だけが残っている。

実家にいたころは勝手に全部食べてしまって母に怒られたっけ。

「また勝手に全部食べて、私も食べたかったのに!」

といって隠していた1つを取り出してみんなで食べることもあった。

隠していたならそれも食べてしまいたかったと思ったりもした。


家について早速食べてみようと思い、

紙袋の中から取り出してみる。

まな板と包丁を準備して、いざ実食。

そう思い触ってみると、なんだか感触に違和感あり。

実は梨って結構固い。

状態のいいリンゴもそうだけど、

指の背で叩いてみると、

コンコンといい音を奏でてくれる。

なのにこの梨は少し押してみると若干へこむ気配がある。

もう1つもなんだか怪しい。

待っていられないと切ってみると、

案の定少しだけ変色が始まっていた。

食べられなくなるほど腐っているわけではないけれど、

もう2,3日置いたままにしたら腐り始めてしまいそうな予感。

早く貰っておいてよかった。

せっかくおいしく育ってくれたのに無駄になるところだったのだから。

気になる色を無視したまま、もくもくと梨に食らいつく。

切っては食べ、剥いては食べ。

切ったそばから消えていく梨。

やっぱり梨はおいしいなぁ。


果物は新鮮さが売りだと思っている。

食品何でもそうなんだけど。

美味しく食べたいなら新鮮なうちに。

子供のころからそう教わってきた。

今日の梨はちょっと熟している。

こういうものは扱いに困るレベルになると厄介だ。

目が肥えてこなれ過ぎた青二才が、

自分の領域で好き勝手やるのと同じです。

「昔はあんなに素直だったのに、今では生意気言うようになるなんて」

周りからの視線を感じるほどに、自分の立場を大きく見せようとする。

そのたびに自分が腐っていくことも知らないで、

歳を重ねて過ぎていく。

自分が何なのかを忘れたまま。

何事も成就するまで時間がかかるように、

自分の大切なことに気付くのにも時間はかかる。

行き過ぎるとエゴの塊、熟したみかんの出来上がり。

そうなったらもうどうしようもない。

周りのいろんなものを巻き込んで、腐った胞子をまき散らす。

はた迷惑な生ゴミに成りさがるだけ。

腐ってしまうその前に、見切りをつけるのも大事なこと。

それでも頑張りたいと思うなら、

見切りを目標に頑張ること。

いい時期に狩られることを願うばかり。


腐らせてしまいたくないのなら、

美味しいタイミングを逃さないようにすればいい。

新鮮なものを食べたいのなら、大人しくスーパーで買っておくのがいいさ。

近いうちにまた梨を買おう。

そんなことを考えながら、最後の梨を口に放り込んだ。

美味しかった。

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