18日目 日本沈没2020

彼曰く、詰め物たくさんで回収が大変だね、面白いけど。


ネタバレの話をしたところであれですけど、

今回もまたネタバレ小話。

Netflixで『日本沈没2020』が配信中です。

監督は湯浅政明。

『ちびまる子ちゃん』『クレヨンしんちゃん』を経て、

数々の作品に監督や原画として参加しています。

近年では『夜明け告げるルーのうた』にて、

アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門最高賞・クリスタル賞を受賞。

宮崎駿、高畑勲に次ぐ快挙だそうです。

まあ私もオタクのはしくれですし、

近頃見る機会も減っているとはいえ、

暇の時間つぶしはたいていアニメ。

帰ってからすることと言えば、

ご飯を食べるか、日記を書くか、本を読むかくらいですし、

久しぶりにアニメを見るのもいいかも。


『日本沈没2020』。

史上最悪の厄災に見舞われた日本を舞台とした、

我々人間の奮闘記。

どうやら過去に何度も映像化されているらしく、

原作『日本沈没』に至っては1973年に刊行されたのだとか。

私まだ生まれてないじゃん。

両親もまだ出会ってないわね。

耳馴染みがないことこの上ない。

でもなんでしょう、こうスッと脳が理解してしまう納得感は。

東日本大震災。令和元年台風19号。九州北部大豪雨。

異常気象だかコロナショックだか知りませんが、

最近の日本は未曽有の被害を作りすぎです。

作りすぎて新作が出るたびにレコード更新。

毎週ヒットチャートが入れ替わり立ち替わりのダンスパレード。

多分納得以上に諦観が強いような気がします。

「どうせ日本は沈むから、それまでの儚く美しい文化を大切にしよう」

みたいな。

国を象徴する桜の散り際が美しいように、

日本の沈み際も美しいものだろうと。

今舞い降りてもおかしくない絶望を身近に感じるからこそ、

現実を達観視して自らの命と国の行き先を、

死の淵でお茶を飲みながら先祖と昔語りをするのです。

私が理想とする天国での生活ですね。

まだ死にたくないですけれど。


そんなこんなで『日本沈没2020』。

今までの映像作品は、深海潜水艇の操縦者や地質学者、海洋学者など、

特定の肩書を持つ人々に焦点を当て、

彼らの自然への奮戦ぶりを、

グロテスク&スペクタクル、圧倒的特殊撮影の力で以て、

映像的破壊力を中心に描かれてきたらしいです。

(今度暇なときにでも見てみようと思います)

しかし今回は家族の視点に主軸が。

舞台は、今は夢に成り下がった東京オリンピック2020を開催したばかりの日本。

陸上選手の主人公と、その家族を中心に、

被災した人々がどのように行動するのか。

それぞれの選択に命の行先を見据えながら、

出会う人々と関係を築いたり、

あるいは関係を断ったり、

沈みゆく大地から足が離れてからも、

生きるためにどうすればいいのかを、

必死に考えて生きようとする姿が描かれます。

特に軸になるのは主人公、あゆむの心情です。

伝記的であり、ルポルタージュ的でもあり、

歩の成長譚でもあるのでしょう。

突然の試練を前にしてどうすればいいか分からない、

目の前のことも信じられず、

しかし確かなものには縋りついておきたくて、

それを失ったときには何もかもが嫌になる。

日々をまっとうに生きる健気な若者が、

傷つき、うつむき、心を折られても、

前向きに、前進していけるようになるまで、

多様な人と触れ合うお話です。


(報道でかなりネタバレ気味なものもあるので、

私も気にせず書いてしまいます。許してね)

まず、おっと思ったのが、

家族が国際結婚していること。

父は日本人、母はフィリピン人、

弟はときどき英語を使います。

登場人物にもちろん日本人はいるのですが、

メインになるのがハーフとは思いませんでした。

オリンピックを意識しているのでしょうが、

たしかに最近は外国人で日本選手として活躍している人も多いです。

と思えば片親が外国人なだけで、

名前はちゃんと日本人という方がほとんどですね。

彼らの活躍は目覚ましいものです。

1960年のオリンピックからは想像もできない世界でしょう。

前作までとは違い、外国人の被災民も描かれているのも今ならあり得ます。

国際化が進み、日本文化や日本人の規範が

江戸時代の浮世絵よりも、

”umami”という単語よりも、

世界に広く知れ渡り、

日本を愛し、日本に住む人々も増えたのです。

髷と着物を着ていた少国民が、

世界に通じるファッションに身を包み、

多様な言語で会話をしている。

日本人と外国人の境界が薄れ、

互いに尊重し、認めあい、共生することができるのです。

20世紀とは違う、21世紀の日本の姿を映したかったのだと思います。


しかし見た目で分からないものは分かりません。

ウォーリーを探せで、同じ顔が並んでいるなか、

1人だけ日本に帰化した人がいます、誰でしょうと言われている感じです。

ご本人はちゃんと日本人なのですが、

見た目の印象で判断してしまいがちな人からすれば困りものですね。

特に年齢層の高い人たちや右翼の方々からすれば。

スーパーを営むおじいさんや、

保護団体を自称する差別主義者たちの一団が現れますが、

彼らはその証左です。

日本のどこかで息をひそめている過激派は、

いつ、どの時代もいるということを暗に示しているようでした。

こうした人は案外呆気なく散るものですが、

この物語でもその退場スピードの速さは健在です。

社会の隅に押しやられがちな彼らが、

いつその魔の手をこちらに伸ばしてくるか。

普段は気にしないものですが、

実は危険はびこる場所でもあることを思い出してしまいます。

結局気にしませんが。


そう、呆気なく散ってしまうんですよ。

被災作品だからと思いますが、

人が割と容赦なく死んでいきます。

ドミノ倒し、いえ砂の城のように。

1つの出来事で仲間を失う結果が目の前に現れるのは、

歩たちにとってはキツいものがあるでしょう。

自分でもきっとそうなりますし。

まず信じたくないですよね。

まさに父と、先輩の姉の死は唐突でした。

流れるような死。

進んだ先に罠が常にあって、しかも仲間1人を墓場に連れて行かないといけない。

強制的な犠牲の供出です、耐えられません。

だって『Another』みたいにバンバン死ぬんですよ?

これ最後まで生き残れるのかな?みたいに心配しましたね。

不意打ちでループものにジャンル変えしても面白かったでしょうか。


それと対比されるような自然災害の描写。

最初の大地震で歩の住む場所は全て瓦礫の山と化し、

その下に友人や他の選手たちが埋もれてしまっているのは、

結構ショッキングでした。

結果としての災害の描写は、簡素で簡潔で退廃的で個人的に好きです。

災害を好きと言うのも不謹慎ですね。

それとは別の予感、顕現した災害の描写については、

まあ色んな意味でぶっ飛んでいますね。

湯浅さんらしく、過度に動きをつけた輪郭線。

キャラにしろ、波にしろ、風にしろですが、

崩れているのでは?

これは作画崩壊なのでは?

と思えるほどに強調した表現は、

1周回って面白くなってしまいました。

たしかに荒れ狂う風の中を飛ぶカイトは勇敢だったし、

子供のため懸命に泳ぐ母の姿はルフィを守らんとしたエースでしたし、

引きずり込まれる瞬間まで懸命に走った先輩の姿はカッコよかったです。

そちらはエンタメ的で見応えがあったからかもしれません。

こちらは死の瞬間が描かれず、

逆にそれまでの過ちや後悔を思い出し、

本音を吐露する大切な場面で、

引き込まれる魅力を見せる場面です。

人間の汚い部分も、エゴも、無駄なあがきも、

すべては散り際を少しでも美しく飾ろうとする形の表れな気がしてきます。

そして散るときは潔く散り、何もかもなくなったように見せる。

残るのは当人の感情とは別の、

他人から見た当人の姿と他人の心情のみ。

そこに現実を受け止め、生きることの難しさ、ままならなさ、

否が応でもいつかは引き受けることになる想いが描かれるわけです。

人によっては苦手とする人もいるかもしれませんが、

「人の死は案外呆気なく、残った側の人の感情の方が重く、大切」

という、現実的で絶対的な考え方だと思います。

だからこそ英雄的な場面は英雄的であり、

その人の生き様として深く刻まれるのでしょう。

せめて誰かの心に、いい意味で残る人であれたらと、

希望を持ちながら生きるのもいいかもしれませんね。


長々と言いましたが、

やはり実際に観るのが一番いいと思います。

少なくとも私は楽しめました、色んな意味で。

沈んだ祖国に何を思うか。

歩たちがその後どうなったのか、その他の人物は。

この物語、ロードムービーから何を感じるかはそれぞれ違うはずです。

ちょうど某ウイルスで大変な世の中。

理想ばかりの生活が難しくなってきた昨今に合致しますし、

たまには現実を考えてみるのもいいかもしれませんね。

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