24日目 痛み

彼曰く、謎の痛みはある日突然やってくる。


世界が歪んでいるように見えるのは、梅雨のせいだろうか。

それとも、最近いいご飯を食べていないからだろうか。


そもそもいいご飯が何なのか。

腹の足しにさえなればいいといって、

菓子パンや総菜パン、チョコレートやポテトチップで十分な人にとって、

いいご飯はきっとちょっとお高めのお菓子類だろう。

ちゃんと栄養があった方がいいと、

毎日毎日一汁一菜、

炭水化物にたんぱく質、脂質にビタミン、食物繊維。

それぞれ細かく計算して、

自分に理想の数値を叩き出そうと躍起になる人もいるだろう。

私は食をぞんざいに扱うほど雑でもないし、

かといってすべてを理想通りであろうとする、

完全理想主義者というわけでもない。

ほどほどを一番としております。

そんな私のいいご飯は、納豆さえあればいいという結論だったりする。

納豆が食べられない人からすればあり得ない話かもしれないが、

これはいいご飯の定義から考え直した方がいいかもしれない。


そんな議論はどうでもいいです。

辛くても苦くても組み合わせで美味しさがあるものならば、

腹の足しにはなるものの。

歩くたび感じる足の裏の痛み、

そんなものが空腹を満たしてくれるはずはないのです。

紛らわせてくれることはあるかもしれないけれど、

それでは根本的な解決にはなりません。

腹の虫が鳴いているのも、

足の裏のナニカが悲鳴を上げているのも、

定義しないことには対策の立てようもない。


腹の虫が鳴いているのはすぐ解決できる。

「食べたいものを食べればよい」

歩いて5分のコンビニに向かい、

小腹を満たすお菓子でも何でも買えば完結。

随分短い物語です。


一方こちらの右足の裏。

虫でも湧いているのかと見ても何もなく、

かといって画鋲か何かを踏んだと疑ってみても、

尖ったものが刺さった様子もない。

そもそも刺さったような痛みではないし、

画鋲が転がるような職場でもない。

どちらかと言えば筋肉が張ったような、

ジンジンとした痺れを伴う痛み。

揉めば多少は和らぐし、

ただ足を床につけているだけなら何ら痛みは感じない。

手を洗いに行こうと立ち上がったところで、

足の裏全体に緊張が走る。

直立姿勢を取りたいのに、

痛みを少しでも避けようとして左足に体重が寄ってしまう。


剣道をやっていたこともあり、体重移動には自信があるが、

あくまでそれは運動時の話。

普段から左足に体重を寄せているわけではありません。

姿勢を正したくても正せないジレンマが私を襲う。

ファッションセンスの意外な良さと、

立っても座ってもきれいな姿勢。

この二つが私の唯一といってもいい長所だったのに、

これではどちらも際立たない。

最近いい感じで仕事ができていたのに、

意味不明の不快感が、いい気分を霧と散らす。

不愉快な疼きは溜まるように足の裏に残り、

次第に心臓に近づいてくる。

足裏、足首、ふくらはぎ、膝関節、太もも、股関節。

嫌な感じは伝染するのか、

健康だった左足もいつもと違う様子を見せる。


ああ、神様。

もしかして土曜日に散在しすぎたからでしょうか?

財布を買ったのがいけなかったのですか?

それとも天赦日にかこつけて、

「今日はいいや」と筋トレをさぼったからでしょうか?

それともそれとも急に一念発起して、

昨日きつめの筋トレを、準備運動なしにやったからでしょうか?

あるいは疲れているのに夜中まで動画を見て睡眠をさぼったからでしょうか?

どうか貧弱で脆い人間の私を、

謎の痛みから救ってくださいませ・・・。


そんな祈りをしてみるけれど、

天からの啓示が下りるわけもなく。

悪戯が成功した悪ガキのように、

右足の各所で不快な嗤いが起きたりやんだりする。

神も何も信じてはいないし、この痛みの定義も求めていない。

ただ回復するのを祈るのみ。

とはいえ祈りの間に何となく察しはついた。

初めは謎でも、それは原因がすぐに思い浮かばないから。

冷静に考えればアタリはつく。

まだ痛む右足をかばい、びっこを引いて歩きながら、

体のケアのためにマッサージと良質な睡眠をとろうと、

誰かが見ているであろう空の下で静かに誓ったのです。

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