22日目 おとも

彼曰く、一緒にするといい反応が起こるもの。


「暇か?飯行かないか」

出社して早々、先輩が誘ってきました。


打合せあるけど、気を引き締めるにはまだ早い。

ちょっと寝坊して正午過ぎてから入ったのもあって、

若いお腹にはまだ余裕がある。

正直昨日買ったメンチカツは食べておきたい。

一昨日財布を買って散財してしまったし、

薄給の生活のなかでランチにでかけてばかりは難しい。

一人暮らしは節約を意識しないと、

先が見えなくなって辛いのです。

使いすぎは禁物。

湯水のように贅沢はできない世代なのです。

ゼイタクは敵だ!


…とはいえ先輩のお誘いです。

話すのに一癖二癖ある人ですが、

いい人柄の先輩にはちがいない。

誘ってくれるのは珍しいですから。

本音を言えば、新調した財布を見せびらかしたい。

見られないにしても使ってあげたい。

一昨日の買い物後ですし、懐に余裕もある。

自粛期間もふわっとした時期に入りつつあるし、

誰かと食べたい時期にもなってきた。

聞けば新人とご飯に行っていないから、

ここらで改めての自己紹介がてら、

一緒に行きたいとのこと。

私は何度か新人と行っているからいいけれど、

付いている私とばかりでもかわいそう。

同じ部署にもいろんな先輩がいるのです。

面白い人、仕事のできる人、ためになる話をしてくれる人。

世界77億人とはいかずとも、

12,3人の小さな世界。

話を知っておくのに苦労はしない。

その内の数人でしかいかないのだから、

十分聞く耳は持てる範囲でしょう。

後輩とランチも久しぶりです。

たまには出してあげましょう。


そんなこんなでランチです。

近くのパスタ屋さんに向けて歩いていきます。

朝ほどの雨は落ち着いてきて、

傘をささなくても許せるくらい。

梅雨時の昼下がり、少し肌寒くなってきました。

大人なので人にすり寄ったりはしないけれど、

誰かと一緒に行くのは久しぶり。

おともに駒使いを連れる感覚ではなく、

単純に同僚として行くご飯。

私にとっては先輩と後輩にサンドされた形。

特に緊張感もなく、リラックスした気分。

忙しくなる前のタイミングだし、

今のうちに色々話しておきたかったんでしょうね。

あまり話さないなりに後輩を気づかってくれているんでしょう。

意外にいい人もいるのです。

話すなかで後輩にそれが伝わったかはわかりませんが。

下らない話もそれなりにしていたし。

今後やっていくために色々やることは多いけれど、

気を滅入らせることはなく、

体調悪くすることもないようにしながら、

楽しくやってくれたらいいな。


外を出る頃には雨も上がってる。

この先暗雲が立ち込めるか、

透き通るような晴れやかな空が広がるか。

それは彼ら次第だけれど、

今のうちはおともに私たち先輩が付いている。

そのことを心に励んでくれたらいいな。

そんなことを思う久しぶりのご飯でした。

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