5日目 多忙

彼曰く、忙しいときは無理をしないこと。


これ重要。

あれ重大。

これも大事。

それも必要。


世の中で生きていくにはやるべきことがたくさんある。

やれば報酬に反映されること。

やらないと怒られること。

やっておかないと後がつらいこと。

やっても自分の能力と結びつかないこと。

やっておいたら誰かの助けになること。

やるかやらないかも選べない強制的な仕事。


多忙な日々。

たくさんの”必要”であふれていく。

上も下も左も右も前も後ろも、どちらを向いてもやるべきこと。

上司も部下も経験者も新人も、誰もがぶつかる壁。

過ぎても過ぎても新しい壁が景色をふさぐ。

見たい景色は想像できるのに、瞳に映すことはできない。

押し付けられる”必要”ばかりを相手にして、いつかその景色も忘れてしまう。

周りの声も、自分の心の声も遠くなって、

耳をふさいでばかりいて、

目をこれでもかとギュッと瞑って、

”必要”でできた箱に押し込められる。


「どうせここを出ても、行きたいところにはたどり着けないんだ」

そう言って何もかもを捨て、脆くて固い殻に閉じこもる。

忙しいことを言い訳にして、自分の想いを捨て去ってしまう。

そういう人ほど呟く言葉。


だけど世界はそうじゃない。

壁しかないわけではない。

若いうちから自分のやりたいことを諦めるのは、

周りの人間が許さない。

何より自分が許さない。

たくさんのことに忙殺されて、やりたいことをやれないくらいなら、

一度そこから逃げ出してもいい。

壁も何もないところに逃げ出して、

自分の見たい景色を夢見て、

ゆっくり歩みを進めていく。

壁が現れたとしても、ゆっくり自分のペースで登ればいい。

一つ一つの積み重ねが、壁を超えるための梯子になる。


もし逃げ出すのが難しいなら、

深呼吸して落ち着こう。

周りの壁は迫ってくるけど、一気につぶしに来るわけじゃない。

それぞれの壁を見つめてみて。

本当に重要なものは何か、

すぐに迫ってきそうな壁はどれか、

一つ一つつぶさに見てみれば、意外と脆いところが見えてくる。

小さなほころびを見つければ、壁を壊すのは造作もない。

自分の工夫次第でいくらでも壁を壊すことができる。

どうしても難しいというのなら、助けを借りるのも一つの手。

人でも猫でもなんでもいい。

具体的な解決策が欲しいなら人。

単純に心の癒しが欲しいなら猫。

それくらいの違いがちょうどいい。

何もかもを敵にしないため、心の余裕を持つことが大切。


多忙な時ほど、心の余裕は忘れがち。

余裕を忘れるとほころびが生まれ、壁に圧される弱点になる。

色んな必要が迫ってくるけれど、

一番重要なことは何か。


それは自分が真っ先にやるべきことは何なのか、ということ。


色んなやるべきことを相手にするには、

大人の余裕が必要なのだ。

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