第20話

 軽く腹ごなしを済ませた俺たちは、遊べるような屋台を求め、祭り会場の公園をふらつく。


「なあ、まずは軍資金を稼がないか?」


 篠崎の視線の先には、かたぬきと書かれたのれんが。

 かたぬきの屋台なんて小学生の頃だかに1回見たっきりで、全然目にしないから消失したのかと思ってたが、まだやってるところはあるのか。


「かたぬきって何?」

「型抜き全然やったことないけど、確かつまようじとか針で板からくり抜くやつだよ」

「廣瀬さんの言う通り。型を割らずにくり抜けると金がもらえたりするんだよ」


 芽衣の説明と篠崎の補足に、ほうほう、と興味深そうに聞く若宮さん。


「これ1枚やります」

「私はこれを」

「私は一番簡単なのを」

「俺も一番簡単なのを」


 それぞれ100円を払って板を受け取る。

 子供に交じってちまちまと作業をしている高校生というのは、なんというか絵にならないだろうが、やってる側としては結構楽しい。一番簡単なのを選んだおかげもあって順調に進んでいる。俺と同じように一番簡単なのを選んだ若宮さん、それよりかは少し難しいのを選んだ芽衣も順調だ。



 さらに黙々と作業を進めること数分、まずは俺と若宮さんが、次に芽衣が無事完成させる。

 簡単なものは景品が現金ではなく花火なのだが、普通に買うよりはだいぶ安く手に入ったので良しとしよう。

 唯一日本銀行券が手に入る最高難易度を選んだ篠崎に目を向けると、型抜きの板を食べている。残っているのを見ると見事に失敗しているのが分かる。

 やっぱり、欲をかくと駄目なんだなぁ、と思いました、まる。


「さあ、次はどこにする?」


 残念な結果に終わった篠崎は、型抜きの板を食べ終えると首をぶんぶんと振ってからそう言った。

 やっぱり、こいつの切り替えの早さは、一緒に居てすがすがしいものがあるな。


「目につく範囲で無難なのは射的くらいじゃないか?」


 他にも、金魚すくいやヨーヨー釣りなど、遊ぶものはそれなりにあるが、金魚や水風船のヨーヨーなんて手に入ったところで、飼えないし、嬉しくない。


「おお、いいな。それなら俺らの技術も披露できるし。二人はそれで大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」

「いいよ。雨音君と和也君の技術とやらも見たいし」


 そんな大したものじゃないと思うんだけど。中学の時、篠崎と射的やった時にちょっと練習したら、たまたま出来るようになっただけだし。


「そうも期待されると腕が鳴るなぁ」


 少しと歩かず、射的の屋台についた。店主のおじいちゃんに声をかけると300円が10発分のコルク弾に代わり、合わせてライフル型のコルク銃も渡される。随分と良心的な弾数だなぁ、と思いつつありがたく受け取る。


「なあ、雨音勝負しないか?」

「嫌だよ。射的やるの二年ぶりだぞ」

「ちぇー、つまんねぇなー」


 棚の下の方にはお菓子をはじめ、小さめの子供向けフィギアなどが並ぶ。上の方へと目をやれば、動物モチーフのぬいぐるみペンケースや、アニメのロボットのプラモデル、さらには変身ヒーローのグッズまである。若宮さんと芽衣は動物モチーフのぬいぐるみペンケースに、目を輝かせている。


「壮太は何狙うの?」

「とりあえず下のお菓子類をいくつか」


 そう言いながら、とりあえず目に付いたキャラメルに当ててみる。弾が軽いのか、軽く揺れこそしたものの倒しきるには至ってない。揺れが残っているうちに、もう一発同じ場所に打ち込んでやるとあっさりと倒れる。


「すごっ。そんなにあっさりとれるものなの?」

「いや、今回は運がよかっただけだろ」


 横を見ると篠崎も同じ要領で菓子を落としている。一方の若宮さんは上のペンケース狙いなようで、下の大当たりと書かれた小さい的と、ペンケースの入った箱を撃っているが、どちらも気持ち揺れるだけで、ほぼ動かない。


「なあ、雨音。手伝ってくれないか?」

「後でこっちも手伝えよ」


 おう、と篠崎が返事をしたので手元にあるライフル型のコルク銃を何度か握りなおす。空気を吐いて弾を込める。


「行くぞ、雨音」

「おう」


 声に合わせて引き金を引く。そして次の弾をセット発射、さらにもう一回、最後の一撃用に弾を込めようとしたところで、ガタッ、と音がして弾を込めるのをやめる。

 篠崎と俺が撃った弾は、箱の正面の両端をしっかりと捉え、同時に着弾したようで、分かりやすく揺れ始め、更に同じ場所に2発づつ追撃が加わったことで、棚の奥へと落ちていった。


「案外できるもんだな」

「もう一回やるんだろ」

「ああ」


 先ほどと同じように、もう一つのペンケースの入った箱を狙う。先ほどと全く同じように撃ったことで、先ほどの再現かの様に綺麗に落としてみせた。


「いやー、参った。兄ちゃんたちすごいんだな。当たり的を倒す以外に方法はないと思って、置いてたんだけどな。持ってきな」


 おじいちゃんは落とした二つのペンケース、お菓子を持ってこちらにやって来る。それを俺と篠崎が受け取ると、いつの間にかできていたギャラリーから盛大な拍手が送られてきた。


「なあ、芽衣。いつの間にこんなことに?」

「篠崎君と壮太が一個目を落としたところで、立ち止まって見る人が出てきて、2個目を撃ち始めたらさらに増えてった感じ」

「全く気付かなかったわ」

「すごい集中してたもんね」

「ああ、まあ。それより、これ」

「えっと、私にくれるの?」

「欲しそうに見てたから、そうなのかなって思って取ったんだけど」

「ありがとっ!」


 芽衣は俺が差し出した、ペンケースを受け取ると思いっきり抱き着いてきた。

 ちょっと、まだ店の前なんだよ? めっちゃギャラリーに見られてるんだけど? ってかギャラリーは更に拍手するんじゃない!

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