第194話 領内紹介。6

 とりあえず、クームとヤーガとの顔合わせは行えた。

「それではチャオさんデザートに行きましょうか。」

 と十全が誘うと、チャオは嬉しそうに笑った。

「お昼があれだけ美味しかったのです。デザートも楽しみです。」

「ではこちらに。」

「こちらでいただけるのではないのですか。」

「せっかくですし、デザートの作っているところを見学してください。」

「ほ~う、ソレは楽しみです。」

「ではこちらです。」

 十全はチャオとモンペチを連れて屋敷を出ると車に乗り込む。

 行ってらっしゃいませとウルトゥムとメイドたちに見送られながら。

「この馬車は馬がいないのですか。」

「そうです。これは大和の科学を用いた自動車というものです。技術自体は戦前からありましたが、戦時中の兵器開発の技術を取り込み、より高性能に、より環境にやさしく発達しています。これはその先行量産型で、将来は各家庭に1台は普及させていきたいと思ってます。」

「まさか、このような魔法のような技術を各家庭にですか。ウルタール王国では馬車だって貴族の乗り物なのに。」

「大和との良好な関係を築ければウルタール王国にもこの技術が入っていくでしょう。」

「にわかには信じがたいですが、それは楽しみです。」

「おっとそろそろ着きます。」

「もしかしてあの白くて四角い建物ですか。」

「そうです。」

「アレは何なのですか。」

「アレは工場のような物です。」

「この小さな山ぐらいあるものが工場ですか。いったい何を作ってるのですか。」

「稼働してるのはまだ一部ですが食料品を作る工場です。」

「食料を?工場で?」

「我々も偶然手にしたものを利用するために開発したシステムなのですが、チャオさんは異界をご存じですか。」

「聞いたことはあります。」

「そこで手に入れた世界の卵をこの中で孵化させて、管理された異界を作ってるのです。」

「そんなことが可能なのですか。」

「我々も初の試みです。最初は試行錯誤でしたが今は安定してきてます。これを普及させて食糧生産の向上を図れればと思ってます。」

「中を見せてもらってもよろしいですか。」

「もちろんです。そのためにご案内したのですから。」

 そう言って十全は白い建物に空いた入り口に車を停めさせて、2人を工場内に案内した。

「この建物の床、変わった材質ですね。石でもなく木でもない。なんですか?」

「リノリウムという素材ですよ。天然素材を混ぜ合わせて塗り固めています。」

「ふむ、柔らかいようでいて硬い。それでいて滑りにくいですね。」

 チャオは床を踏みしめながらつぶやく。

「水はけがいいのでこういう食品工場や病院などで重宝する素材です。」

「魔法を教えに来たのに、逆に驚かされてばかりですよ。」

「これを世界に広めていきたい。」

「それが万国博覧会ですね。」

「そうです。」

「楽しみですよ。」

 十全とチャオは顔を見合わせて頷きあった。

「そしてここがその異界牧場です。」

「こ、これは。」

 チャオがそこで見たモノは――――

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