第180話 閑話、ハンバーグ。12
焼き加減はいかがなものか?それを確認するために十全はフライパンの蓋をとりはずした。
ムワァア。
蒸気が立ち昇り、おいしそうな肉の焼ける匂いもしてきた。
今はまだ片面を蒸し焼きにしただけだ。
「いい感じかな。それじゃあフライ返しでひっくり返そう。」
「はいデス。」
「分かりました。」
十全の言葉にニャルとウルトゥムの2人もふたを取る。
「うぅ~んいい臭いデス。」
「これをひっくり返すのですよね。」
「そうだ。まず手本を見せるからな。ちなみに、形を作る時の投げて空気を抜くのがいまいちだった場合ここで崩れる。」
「うにゃ。」
「ソレはいやですね。綺麗にひっくり返せるでしょうか。」
「それじゃあやってみるぞ。ほい。っと、どうだやれそうか。」
「やってみるデス。えい、わぁー、上手く出来たデス。」
「こちらも崩さずに引くり返せました。」
「うん、よくできました。焼き目も綺麗についてるだろ。」
「はい。」
「美味しそう、デス。」
「これから火を中火にしてもう片面にも焼き目を付けていく。」
「蓋はいいのですか?」
「ここはいいよ。」
「さて焼き目も付いてきたし火が通っているか調べてみよう。」
「切ってしまうのですか。」
「切らなくてもいいよ。この竹串を使って調べられるんだ。こうやって真ん中あたりに竹串を刺して抜く。火が通ってないと白い油が付いてくるけど、火が通っていると抜いた穴から透明な肉汁があふれてくる。」
「本当ですね。」
「美味しそう、デス。」
「ここまで火が通ったらお皿に盛りつける。」
「これで完成ですか。」
「これでも美味しいけどさらに手間をかける。まずはソースだ。」
「なるほど、ソースも大事ですね。」
「材料は肉を焼いた後に残る肉汁、これにすりおろしリンゴと黒コショウ、オイスターソースがあれば入れたいけど今は無いから醤油とみりんで代用。これらを軽く煮詰めて完成。」
「このままかけますか?」
「いや、それは小鉢に入れて食べる前にかける。それと、ハンバーグにはまだ乗せるものがある。」
「ソレは。」
「まずはフライパンを洗ってもう一度火にかけて油を引く。で、卵を黄身をつぶさないようにして焼く。」
「目玉焼きですネ。」
「そ、目玉焼きは少し水を加えて蓋を閉めて蒸し焼きにする。火力は中火、半熟になるように焼く。」
「半熟卵好きデス。」
「だよね。で焼いてる間にハンバーグにチーズを乗せて。」
平成ならばとろけるスライスチーズをのせるところだが、この世界には無いのでそれに近いチーズを仕入れてある。
「これくらい。」
「そうそう、軽くかぶさるくらい。でこの上に焼いた目玉焼きを乗せて。」
「わぁ~、チーズがとろーりと溶けていって美味しそうデス。」
「さあこれで完成だ。」
その日、食卓には3人で作ったハンバーグが並んだ。
ご飯やパン、コーンポタージュなんかは近藤達厨房のシェフが作ってくれていたがメインディッシュはハンバーグだ。
「美味しい。これウルトゥムさんが作ったのですか。」
雫にも好評だ。
「兄さんが人に教えられるほど料理ができるなんて知らなかったな。」
暁は複雑な顔をして居る。
「実家に居た時は剣の修行とか士官用の勉強ばっかで厨房なんかには入らせて貰えなかっただろ。」
「そうだけど。」
「なんだ、暁は料理できないのか。」
「うぐ。」
「いいだろう今度教えてやる。」
「お願いします。」
暁も料理には前向きだ。
「ほうれん草美味しいです。肉汁に付けると独特のコクがありますね。」
「そうだろ。ほうれん草は油でいためると旨味が出るんだ。」
ウルトゥムは自分で作った料理に満足そうに舌鼓を打っていた。
これならたまには料理教室を開いていくのも悪くないだろう、と思う十全だった。
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