第174話 閑話、ハンバーグ。6

 という訳で、ウルトゥムに教えるハンバーグづくりは、自分たちで狩ってきた野生の豚と熊の肉を使って作ることになった。


「かなーりワイルドなハンバーグね。」

 近藤の言い分に文句もあるが言い返せない。

「あ、姉様いました。」

 そこに1人の小柄なメイドが現れた。

 ウルトゥムを姉と慕い、十全の側室でもあるニャルだ。

「何をしてるのですか~。」

「あぁ、ニャルですか。」

「ぎゃわあああああああああああああああああああ!」

 振り返ったウルトゥムは血まみれだった。

 肉の解体は自分がやるといってゆずらなかったウルトゥムは、エプロンの上から顔に至るまで血まみれになっていた。

 信じられるか、これ、俺の嫁さんなんだぜ。


「ね、ねええええええさああああああまああああああああ。なあああああああああにいいいいいいいいいいをおおおおしいいてえええまあああすううううのおおおおおおおおおおおおおおお!」

「ニャルも一緒に食べますか。」

「なにをデスカ!」

「ハンバーグ。」

 熊の臓物を引きずり出しながらのたまうウルトゥムにニャルは貧血を起こしたようにふらつく。

 十全が咄嗟に支えると。

「――――お前のせいか?」

 そうニャルが聞いてくる。

「いや、ハンバーグの作り方を教えるとは言ったが、もっとマイルドなヤツだぞ。」

「どこが。すっごいワイルドですわ。」

 (こいつも言葉に遠慮が無くなってきたなぁ。)そう思う十全は、

「本当はここまでワイルドにするつもりはなかったんだ。でも、ウルトゥムが食材の調達からしたいと言い出してな。」

「まさか、狩ってきたんですの。あれってバックベアードじゃないっですか。あれで村の1つや2つ壊滅しますわよ。」

「ボリアはなんてモンを持ち込むんだ。」

 明らかな外来種な熊に十全は叫ぶ。

「でもほんとは豚と牛で、クマじゃなかったんだけどな。」

「ここにきて牛ですってぇ。」

「熊よりはましだろうが。」

「どこがデスカ。牛と言えばミノタウロスのような神獣一歩手前の怪物じゃないデスカ。地球人はあんなモノを食べるんデカ。」

「結構ポピュラーな肉だけど。」

「うそでしょう。地球人そんなに野蛮でしたの。」

「たぶん、お前らの知ってる牛と地球の牛は別物だと思うぞ。」

「そう願いたいですわ。それでハンバーグってどんな拷問器具ですか。」

「料理だよ。」

「分かってますよ。でも、ボリアでは牛の肉には呪が掛かっていって、食べると体が膨らんで豚みたいになってしまうという食材ですわよ。」

「それ、タダの食べ過ぎだ。」

 十全がごく当たり前のツッコミを入れると。

「食べ過ぎで豚になんかなるはずありませんわ。呪でしょう。」

 どうやら中世レベルの知識からしたら、肥満は呪か何かと勘違いされているようだった。

「とりあえず、今回は牛の肉は使ってないから、お前も一緒に作らないか。」

 そう言って、ニャルを誘ってみた。

「……作るって子供ですか?」

「ハンバーグだよ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る