第165話 黒龍のお仕事。2

「それじゃあおさらいしようか。」

 新しい事業のGOサインの前に、メリットデメリットの確認、危機対策の確認、予算並びに人員と資材の確認は必要だろう。

 だから会議の最後は関わる人間と確認作業で締めることを決めている。


「まず、今回の新事業は飛竜の騎乗用調教です。」

 ヴォルテールの部下の一人がそう答える。

「これを行うことのメリットですが、」

 その言葉の続きを他のものが引き継ぐ。

 皆で確認する。それが大事だ。

 事業に参加する者たちがそれぞれ認識を共有すること。

 これが出来なければ顧客が求めていたものと発注を受けて出来上がったものに齟齬が生まれる。

 ビジネスマンがビジネス用語を通過うのは、同じビジネスマン同士ならいいが、顧客や下請けを巻き込むのはナンセンスだ。

 十全はそう考えている。

 情報の理解と共有の重要性は、第一次大戦の日本海海戦での日本海軍の勝利が証明している。

 それを知らず新参者ベンチャー企業が格好つけて、自分たちの成功を他人に押し付けるから混乱を生んだのだ。

 十全はそれを避けたいと考え、会議ではこのように確認を締めに持ってきている。


「現状、機械での速度のある飛翔体は実現できてません。領主様の言う気球では天候や風向きに影響される、ということは事実なので、小回りの利く飛行手段は有効です。」

「しかし、デメリット。問題点を上げるならば、飛竜は肉食で気位も高い知性体でもあり、ボリア帝国、カダス連邦でも飛竜の調教は行われていません。」

「しかし、完全上位個体のヴォルテール様が調教の基礎を作ってくれたことで我々地球人でも飛竜の騎乗用調教が可能となりました。」

「なあ、なんでボリア帝国では飛竜の騎乗を発達させなかったんだ。」

「求められませんでしたからな。実力主義の帝国で強者の縄張りたる空を飛びたいと思う人間はいなかったのです。」

 十全の疑問にヴォルテールが答える。

「空に天敵がいないからこその発想というやつか。」

「そうですな。」


「それでこの飛竜の騎乗を可能にすれば移動と運搬の速度は格段に上がります。」

「また、観光の目玉にもなります。」

「……動物園もいいかもな。」

「閣下、また新しい事業を思いついたのはいいですけど、順番ですよ。」

「分かってる。」

 ヴォルテールにたしなめられて、動物園の考えは見送る十全。

 (でも、生物の生態研究や保護をする機関も作っといた方がいいよな。)


「つきまして、この事業はウルトゥム様に実権を握られて肩身の狭い思いをしている拙をはじめとした、男性陣での仕事にしたいと思います。」

「それはいいけど、排他的な差別はするなよ。」

「分かってます。望むものが居れば受け入れます。が、女性にはちょっときつい仕事でしょうな。」

 「ははは。」と笑うヴォルテール達だったが、軌道に乗った頃に、騎士団の女性陣がMy,飛竜を求めてきたりしたのだった。

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