第142話 異界探索。8
白いドロドロ、生クリームの池を迂回した暁が十全たちに合流した。
「あらあら、兄さんも雫さんもドロドロじゃないですか。折角の鎧が台無しですよ。」
腰に手を当ててのたまう暁も神鎧領の受領者である。
暁に与えられた神鎧領は南蛮具足のようなシャープなシルエットをした銀色と赤の鎧である。
前立てには鏡が設えてありキラリッと輝いている。
「で、兄さんは何でこんな茶番をしたの。」
「茶番言うな。今雫にも説明したところだが、俺がいないところで2人が不測の事態に指揮官として冷静な判断ができるかの試験だったんだよ。」
「なるほどねぇ、でもそれ本番でやる事。」
「試験と言ってやると構えるだろ。」
「それで体張るのはどうかと思うよ。兄さん。雫さん、本気で心配してたんだから。」
「それは済まんと思ってる。けどいつかはやっておかなくちゃならないし、今回はベテランの山口大尉が斥候についてくれているから、安全は確保できている。」
「あの人も神鎧領を賜っているものね。」
「逃げ弾正の称号も伊達じゃないだろ。」
「ぷはっ、何アンタ、すっごい滑稽になってるじゃない。」
「ダーリン大丈夫なの。ヤーガはクーガと違って笑ったりしないから。」
そこにクームとヤーガを連れた第二部隊も到着する。
「ようお2人さん、ここはこんなんなっているけど、どう思う。」
「ハッキリ言って、なんじゃこりゃ、ね。」
「プッ。」
「ちょっとなんで笑うのよ。」
「なんじゃこりゃああああぁぁぁぁぁぁ!ってやつでしょ。クームさっきのと被ってるからよ。」
と、抑揚のない喋り方をする無表情のヤーガがいきなり松田優作の「なんじゃこりゃああああぁぁぁぁぁぁ!」をやるもんだから、皆ビクッとした。そのあと大爆笑が起きた。
「むー、みんなして笑わなくていいじゃない。」
「それでここだけど、はっきり言ってクン=ヤンと全然違うわね。」
そう答えるクームの横でヤーガ白い泥、生クリームを指ですくって匂いを嗅いでから口に含む。
「甘くて美味しい。」
「ヤーガ、お腹壊さない。」
「大丈夫、ヤーガの魔法で検査済み。身体には悪くない。」
「本当。だったらクームも一口。――――う~~~ん、美味しい。」
にっこりと笑うクームはやっぱり女の子だけあって甘いものに目がないのか、とてもいい顔で生クリームのついた指を舐める。
そしてその味がお気に召したのか、2口目、3口目と指を舐める。
と、その眼がトロンととろけてくる。
ぴちゃぁ、チュプン。レロ~~~~~~~~。
「おい、なんかクームの様子が変だぞ。」
やたらとエロチックにクリームのついた自分の指を舐め続けるクーム。
「どうやら体には悪くないけどアルコール?ううん、媚薬に近い成分が入ってるみたい。」
「マジか。俺も舐めちゃったぞ。」
「多分体質もある。クームはお酒にも弱いし。」
「そうか。とりあえず、調査が進むまであんま口にしないように。」
「ほら、クーム、もう舐めちゃだめだよ。」
「え~~~、なんで~~~~。」
と、そんなことを言ってるところに。
「閣下、敵性生物に遭遇。そちらに向かっております。」
と、斥候の山口から通信が来た。
「総員戦闘態勢。」
異界での戦闘が始まる。
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