第128話 「独覚」穿 一心斎。2

「さらに言うとだな。」

「まだ続くんですか。」

「もう少し語らせて。」

 と、いう訳で師匠の語りがもう少し続きます。


「これはあくまでオレの考え方だけど、不正行為をするやつ、特に汚職とかな。こういうのは主に2つの原因があると考えている。

 1つは先ほど言った、やりたいことを軽視されてきたことだ。

 こういう人はそれでもやりたいことを貫けられれば、プライドが生まれる。

 しかし、人に邪魔されて断念させられた人はどうなると思う。

 オレは絶対に卑屈になると思う。

 こうなった人は正しくあろうとできなくなると思うんだ。

 そしてもう一つは、先ほどの人に育てられた人だ。

 正しさよりも結果、人の求めることに従うのが正しいと教え込まれた人。

 こういう人の正しさも歪む。

 こういう人は結局大多数の意見が正しいと考え、少数を悪と断じて迫害し始める。

 自分が正しいと思う人は、なぜ自分が正しいか、を理解せずに自分が正しいと思ってしまっているために、悪しか見えなくなってしまうんだ。

 だから他人を貶める。

 自分のルールの結果だけを求めるようになる。

 その結果が不正行為や汚職につながると感じる。」


「それで師匠は社会が良くないと。」

「いやむしろそう言うのが出てきて、皆で叩くから、正しいことをするために人と違うことができない社会が、結果的にじり貧になって悪くなると考えている。」

「言ってることは分からなくもないけど、それって理想論じゃないのかな。」

「理想論を理想論だと言っていては何も結果は出ない。そこで結果を出そうとするものが先に挙げた人間たちになる。」

「ん?どういうこと。」

「分かりやすくゆうと、そういうやつが権力を持ちやすい社会ができて、独裁者ができる。」

「ヒトラーみたいな。」

「オレはむしろヒトラーは残念な人だと思うな。あの人は貴族なんかの権力者の封建的社会を打破しようとして、力及ばず社会に飲まれて独裁者になってしまった、と思ってる。」

「そうなの。」

「意外と知られていないが、ヒトラーと他の独裁者では人間性が違い過ぎる。ユダヤ人の虐殺をヒトラーの責任として挙げ連ねているから同じ独裁者扱いされてるんだと思うぞ。」

「すみません。俺にはちょっと難しいです。」

「ダメだぞ、貴族社会はこれくらいのことを考えられないとすぐにいじめられる。」

「貴族社会もスクールカーストも同じものですか。」

「根本的なところは同じだろ。」

「そうなんですか。」

「それが分かるか分からないかが重要だと思うぞ。」

「努力はします。」

「まぁ、お前にとっては次の次、ぐらいのステージかな。目下重要なのはお前の領地の発展だな。」

「それについてなら問題がいくつか。」

「異界のことか?」

「あれって1つで終わりですか?」

「お、いいところに目を付けたな。そこからどう思考を発展させるかが貴族の務めだよ。」

「では、少し相談に乗ってください。」

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