閑話 魔王と勇者

「ふはははははははははははははははははは。貴様が異世界から召喚されたという勇者か。」

 雷鳴とどろく闇の世界、その一番深き場所にある魔王城にその主の大音声が響き渡る。

「どれほどの偉丈夫かと期待していたモノを、まるでオオカミにかられるシカのようなナリではないか。それでよくもまぁ朕の四天王を倒せたものよ。」

 居丈高に高みにある玉座から魔王が言い放つ。

 それに負けじと勇者も大きな声で返す。

「そちらこそ、魔王というからにどれほど醜い化け物化と思っていたら、これほど可愛いお嬢さんだとは思いもよらなかったよ。」

「可愛いじゃと、貴様――――――よもや朕を、朕を――――


「朕を口説いておるのか!」


 偉大なる魔王様は顔を真っ赤にして、期待に満ちた目で勇者を見る。

 それに勇者は。

「あぁ、もちろんそのつもりだよ。だから仲間を連れずに1人で来たんじゃないか。」

「朕が聞いてたところによると、勇者、貴様は召喚されてから大体一人で旅をしてきたそうじゃないか。」

「ははは、確かにオレはボッチだ。だがそれもオレと気が合う仲間が居なかったからだ。」

 堂々とボッチ宣言をする勇者であったが、その顔は真面目であり、真面目に――――


「魔王よ。魔王スカーレットよ。オレと子作りを前提に付き合ってくれ。」

 胸に片手を当て、高嶺に居るお姫様に手を差し出すように告白をした。


 キュッン。


 魔王はその告白に胸が高鳴り1歩後ずさる。

「貴様……、よくも、よくも……—―――――


「よくも朕を下がらせたな。」


 怒気をはらんで前に進みだして勇者に啖呵を切った。

「許しはせんぞ。この朕を可愛いと言った責任を取らせてやる。」

「望むところだ。」

「例え死んでも付きまとってやるぞ。」

「俺だって死んでも付きまとってやる。」

「いいだろう。ならば見せてもらおう。お前の本気を。」

「とくと見せよう俺の本気ってヤツを。」


「食らうがいい。」

 魔王は火の魔法をくり出した。

 その魔法は初級魔法に過ぎなかったが、四天王である火をつかさどる魔物の行為魔法にも引けを取らない威力だった。

 勇者はそれを正面から真っ二つに切り裂いた。

「こんなものかぁ~!」

「まだまだ~。」

 続けて繰り出されるいかづちの魔法。

 かみなりではない。いかづちである。

 その違いは威力だけではない。

 かみなりならば相手を真っ黒に焼き払うことができる魔法であるが、いかづちの魔法は質量を伴うかのごとき威力をもって対象を粉砕するのである。

 そのいかづちが勇者の体をとらえる。

 勇者の体はビクビクと跳ねまわる。

「くっ、お返しだ。」

 勇者もまたいかづちの魔法を魔王に放つ。

「ひゃうん。」

 魔王の体も跳ねる。

「なかなか効くだろう。」

「勇者よ貴様こそ効いているのだろう。」

 両者、体から黒い煙を上げながらも不敵に笑う。

「いやはや、いい具合に身体のコリがほぐれたよ。サンキュー。」

「こちらもいい感じに体が温まってきたところだ。」

 2人は剣を手にしてにらみ合う。


 そして、どちらからともなくぶつかり合た。

 こうして勇者と魔王の最終決戦イチャイチャが始まり、のちには魔王城が跡形もなくなってしまうほどの戦いを繰り広げた。


 魔王と勇者、両方を失った世界は、魔物も人間も決定的な力を失たことにより、自然と不可侵となり世界は平和となったのだった。

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