第121話 邪神談義

 ヴォルテールの話はこうだった。


 その者、生きたる炎である。

 その者、神を殺す炎である。

 幾百にも姿を変えて忍び寄り、あらゆるものを内側から焼き尽くす炎である。

 それは天をめぐる炎である。

 それは地に潜む炎である。

 それは人の心から生まれる炎である。


「なぁ、ヴォルテール。」

「何でしょうご主人様。」

「その邪神の名前はクトゥグアって呼ばれている?」

「いいえ。クトゥグアと言えばそう呼ばれる種族がおりますが、この者達は邪神とは関係ありませんし。」

「じゃぁなんて呼ばれていたんだ。」

「奴はヒューム・カガチと呼ばれていました。」

「ヒューム・カガチねぇ、う~~~~~~~ん、思い当たることが無い。」

 しいて言うならモンハンぐらいか。

「8000年ほど前にヤツが現れた時は、ンガイという小さな惑星ですが、そこが焦土と化しました。」

「その話はこっちにあったクトゥグアの話みたいだな。」

「呼び方が違うだけで同じものかもしれませんな。」

「そいつには他にどんな呼び方があった。」

「ヤツを信仰していた邪教徒たちはヤツを「母を食らうもの」と呼んでおりましたな。」

 それを聞いて十全は考え込む。

「「母を食らうもの」?つまり母殺しの神、それなら心当たりもある。」

「ほう。」

「1つはメソポタミア神話の創造神であるティアマトを殺した子供たち。しかしこちらは1柱の神でなく、次世代の神々による共犯だった。だからそれよりかは――――」

 一つ頷いてから十全はその名前を口にする。

火之加具土神ひのかぐつちのかみだ。」


 ヴォルテールはその名前を聞いて思案する。

「ヒノカグツチノカミ。それは何処かヒューム・カガチと響きが似ていますね。」

「俺もそう思った。」

「して、そのヒノカグツチノカミと言うのは。」

「カグツチと略称で呼ぶことが多いが、この神は日本の神だ。」

「ふむ、あの異界がその神と何かあるなら、この日本にあるのも不思議ではないですな。」

「それな。だが、日本では長いこと神様なんてものが人の世に出てくることなんてなかった。ましてカグツチならばなおのことな。」

「それはどういうことですか。」

「カグツチは日本における創世神話において、国生みの神である母が最後に産んだ神なんだ。」

「創世神話の最後の神。ボリアでは死の神とされていますな。」

「それは今度聞きたいな。ともあれ、カグツチは火の神であり、カグツチが生まれる際にカグツチの炎で母親たる神は死んだんだ。」

「母殺しの神ですか。「母を食らうもの」と同じとも取れる話ですねえ。」

「とわ言え、カグツチはそのあとすぐに父親の神に殺されている。今回の異界に何か関りがあるとしても、そのものではないと思う。と言うか思いたい。」

「なるほど、とわ言えこの地に拙の知っている邪神の気配があるのは確か。」

「それがあの異界に原因があるならかなりやばそうだな。」

「こちらもその者とは断言できませんが、何らかの危険があると思います。」

「う~ん、陛下もなんか他に情報を掴んでんのかもな。」

 出なけりゃ一個中隊なんかマジで出してこんだろう。

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