第63話 黒き竜は1人思いにふける。1
うっそうとしたジャングルに覆われた屋敷、大和帝国皇帝によってフルボッキ領と名付けられた地に立つ唯一の建物である。
そこでかつてボリア帝国の力の象徴と言われた帝竜の1体、黒竜ヴォルテールが一人で留守番していた。
彼は今は竜の姿ではなく人の姿である。
黒い執事服に身を包んだ彼は立派な髭を蓄えた老人の姿である。
黒龍ヴォルテールは帝竜の中でもひときわ年経た竜で、彼こそが帝竜そのものとうたわれ黒帝竜などと呼ばれていたりもした。
「だがそれもただの老人に過ぎないか……」
そう独り言ちるヴォルテールは自分の姿を見て文字どうり「老人だなぁ。」とため息までつく。
竜。
人から見れば長命な竜種とて老いはする。
亜竜種ともなれば100年も生きられないからこそ亜竜なのであって、真竜なれば1000年でようやく1人前であろう。
そして真竜は年を経るにつれ力を増していく。
1000歳なら大体で人間の二十歳ぐらいになり、5000歳ぐらいを全盛期として卵を産むのである。
そして6000歳頃から急激に衰えていくのだ。
これは補足だが、竜は意外と多くの卵を産む。
食物連鎖の頂点で食料を多く手に入れらえることと、子供同士を競わせることで強い個体を選別するためにだ。
その頃のことを思い出そうとしてもヴォルテールには遠い昔故におぼろげにしか思い出せなかった。
それも彼がもう少しで1万歳になるくらいに年経たからである。
竜としても飛びぬけた彼であったがやはり年には敵わないものなのだろうか。
今の彼は好きで人間の姿をしているわけでは無い。
たった一人の人間に敗れて負った傷の深さ故に竜の体になることができないのである。
竜の体は強靭で生命力にも優れている。
だから普通は傷をいやすなら竜の体の方が都合がいいものなのだ。
ただし、命に係わるほどの傷ならば最低限は自分の巣でなければならないという条件が入る。
傷を治す間の体の維持には龍脈と呼ばれる場所に作った巣でなければ叶わず、巣に帰れない時はむしろ竜の体の方が消耗が大きくなってしまうのだ。
だからこそ今の彼は人の姿をしているのだ。
今のままでは傷が癒えるまでどれだけの時が掛かるだろう。
そう思うヴォルテール。
彼の顏に微かに苦渋の表情が浮かぶ。
白い髭に白い髪の毛の老人であるヴォルテールであるが、巌の様な顔をしている。
口は堅く結ばれており目つきも鋭い。
加えてしわの刻まれた皮膚はしかし垂れることなく表情を引き締めている。
彼の主である十全ならば彼の顔を「壮年のスネークみたい。」と言っていただろう。
そのスネークの様ないかつい顔をしたヴォルテールは周りを見て自分が1人である事を確認した。
彼の主人たちが帝都大和から屋敷に帰って来るのは後日になるとの連絡を受けている。
「…よし、今のうちに。」
ヴォルテールは主の居ない今だからこそと行動を起こす。
彼はおもむろに服を脱ぎだした。
「フンッ。」
そして筋肉に力を入れてポーズを決める。
ムキムキ、ピクピク、ガッチンムッチン。
そんな音が聞こえてきそうなほどに盛り上がる筋肉。
大胸筋に広背筋、上腕二頭筋の次は大腿筋と全身の筋肉に力を加えてその動きを確かめていく。
―――――全裸で。
「フム、これなら人としては不自由などしなくて済みそうですね。」
そう満足感のこもった独り言をつぶやいた。
もしここにウルトゥムが居たら、
「いい年したジジィの全裸とか誰得ですか。駄竜の駄筋肉とか硬くて食べれそうにもありませんね。食欲がなくなるので消えてください。」
ぐらい言いそうだ。
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