第57話 食後の団欒。1
最後に蕎麦湯をもらってそばつゆを割った物をウルトゥムと一緒に飲んでいたら、デザートが運ばれてきた。
黒ゴマのアイスだった。
「これ頼んでないけど。」
俺は運んできた近藤にそう伝えると。
「アタイのおごりよ。で、代わりと言っちゃなんだけど少し話をしない。」
そう言われてウルトゥムを見たら。
「別に2人っきりでってわけじゃないわよ。奥さんも一緒で構わないわ。」
「てか仕事はいいのか?」
まだウルトゥムのことを奥さんと言われ慣れてないせいか、少し恥ずかしさでぶっきらぼうな返しになってしまった。
それが分かっているからだろう、近藤は含みを持たせた笑みで返してきた。
「今は休憩中よ。」
そう言って「休憩中」と書かれた腕章を見せてくる。
「で、話―――させてくれるの?」
「どうぞ。」
ということで、ウルトゥムが俺の隣の席に移って向かいには近藤が座った。
食器はデザートと水以外の物が近藤とは違うメイドさんに下げられていった。
―――もうちょっと蕎麦湯飲みたかったな。
「で、アナタは領地持ちの貴族になったんでしょう。」
「それは本題か?」
「前振りよ。いきなり本題に入るほどアタイは図太くないわよ。」
「金の無心なら無理だぞ。ウチにはまだ金がない。」
「そんなことは分かってるわよ。本題の前に結論を言う男はモテないわよ。」
「すでに嫁がいるからいい。」
「奥さんが相手でもよ。という訳で、改めて前振りから付き合いなさい。で、アナタ、領地貴族になったのよね。」
「おかげさまでね。そう言うお前は軍をやめたそうじゃないか。」
「ええ、やめたは。すっぱりと足を洗ったわよ。―――と言いたいけど、正確には予備役よ。」
「おまえだってこの前ので昇進出来ただろ。」
「おかげさまで少佐よ。」
「じゃぁなんで。」
「アタイね、元の部隊でも佐官への昇進は確実だったのよ。けど、それを蹴ってあの部隊に移動したのは出世にはもう興味が無かったからなのよ。軍隊に居たのは戦争が終わってなかったから。まだ戦う必要があったからよ。」
「つまり、戦争が終わったから軍をやめたのか。」
「そうよ。アナタには子供のこと話したよね。」
「あぁ。」
つい先ほど思い返したことだ。
「アタイはね、残りの人生を死んだ娘の為に使おうって決めているの。」
「…ん?坊主にでもなるのか。」
「ソレも考えたけどね。けど違うの。……アタイはね、料理が趣味で、休みの日には家族に振舞うのが楽しみだったの。」
「あぁ、お前の料理の腕は知っている。何度も世話になったからな。」
「そうね。アナタ達の料理はひどかったものね。」
「いや、俺だって材料があればそこそこのは作れるぞ。」
「それじゃぁまだまだよ。――――でね、アタイの娘はすっごく美味しそうに食べてくれていたのよ。それで、「パパはコックさんにならないの?」ってよく聞かれたわ。「パパは軍人さんで戦わなければならないから成れないの。」って答えていたけど、軍には主計科だってあったのにね。けどアタイは戦うことを選んだの。家族を守るために。その力があったから。」
それでも戦争は近藤から家族を奪っていった。
「それで今は戦争が終わったじゃない。無理に戦う必要はなくなった、そうできたはずよ。」
そこは……そうあってほしいものだ。
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