第39話 ボリア帝国・1

ボリア帝国。


アザトース恒星宙域にて武力にて他の惑星を支配していった大帝国である。


そのボリア帝国の主星であるのがハイパーボリア。


そのハイパーボリアにある最も栄えているのが首都である「コモリオム」である。


その街並みは大理石や御影石などで作られた建物や塔が並ぶ白亜の大都市である。


そして、その大都市の中でも最も目立つのは皇帝の住む宮殿にして要塞、そして神殿でもあるサイクラノーシュである。


都市の優に3分の1を占めるほどに巨大でいくつもの尖塔が立ち並ぶ、壁面は綺麗に磨かれており傷一つない。


その巨大な建物は白と黒のマーブル模様の大理石で出来ている。


しかし、その壁のどこにもつなぎ目を見つけることができないのである。


まさに神秘の建造物でありボリア帝国の皇室の威厳を知らしめている。


しかしてこの宮殿の全貌を知る者は一握りしかいない。


表の荘厳なたたずまいと違い、その中は最早別世界の様相をなしている。


その宮殿の最奥。


そこに至る方法を知る者が皆無なため存在すら知られない場所。


しかして例外としてその場所を知る者が3人いる。


今、その3人がその場所にそろっていた。


1人はボリア皇帝の紋章の前に座る女性、


ナイア・アスト・ラル・ホートフ。


黒き肌、腰まで伸びる黒髪、黒き瞳、ボリア皇帝の血筋の証たる長い耳。


彼女こそが「黒き乙女」の異名を持つボリア帝国の皇帝である。


そして、皇帝・ナイアの横に侍る男が宰相のセベク・ダイルである。


セベクは女性としては長身のナイア皇帝よりも頭一つほど背が高い。


そして体躯も筋肉に覆われたガタイのいい男で、宰相よりも近衛の騎士の方が似合う男だ。


セベクもナイアと同じ黒い肌をしているが、これはボリア帝国の民皆に見られるモノで、黒い肌以外の民は総じてボリア帝国では身分が低くなる。


とわ言えセベクの育ちはいいほうである。


にもかかわらず彼の恰好は質素なものだ。


地球で言えばローマの人みたいな白い布を巻いただけで、装飾と言えば眼鏡ぐらいだろうか。


「さて、大和帝国の映像は見られましたかな。」


セベクが厳つい顔の大きな口で、しかし意外にも高い声色でしゃべり出した。


「フン!忌々しい。ぽっと出の惑星国家風情が、ボリア帝国に並べると思っているのか。」


セベクの言葉に答えたのは3人目の人物。


ナイア、セベク共に背が高いほうだがこの3人目はそれを圧倒する巨体である。


黒騎士。


常に漆黒の甲冑で全身を覆ったボリア帝国最強の騎士である。


「見たかだと。あぁ見たとも。忌々しくもあのウルトゥムと大和の英雄だかとの結婚式であろう!」


黒騎士の甲冑からはいら立ちを通り越して怒気があふれてきている。


「あ奴は、呪われた白き肌とは言え、ウルトゥムはボリア皇帝の血筋、けっけっけっけ、結婚するところを見せつけてくるとは!ボリア帝国と対等になったという挑発ではないか。」


怒れる黒騎士にセベクはため息をつき、ナイアは少し怯えを見せるものの威厳のある声で落ち着かせた。


「ですが、実際に大和帝国から対等の立場での国交の申し出がありました。」


「ふざけているのか。皇族を捕虜にして、さらには勝手な婚姻を結んでおきながら。」


「落ち着きなさい。」


今度は皇帝に代わってセベクが言い聞かせる。


「あの女だけではない、捕虜になっている者は誰一人帰ってはこれない。それは大和帝国との国交がなく、捕虜協定のひとつもないからだ。」


「そんなものはあの弱小勢力相手には必要ないとお前が決めたことだろ。」


「はい、そうです。それについては謝らせてもらいます。ですので私は改めて大和帝国と国交を結ぶ機会を活かしたい。」


ズダァーーン!


セベクの目の前の床に黒騎士が振り抜いた剣が突き刺さる。

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